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文春オンライン、週刊文春の“別班”が総力を結集して謎に迫る『VIVANT』を120%楽しむ!

「水を飲まなくても…」モンゴル研究者が『VIVANT』に指摘したい“あるシーン”とは

モンゴル研究者がみる『VIVANT』#1

島村 一平 2023/09/10

伝統的な“立て襟つき”スタイルを取らない二宮、役所ら

 ところが、本作に登場するドラムやアディエル(Tsaschikher Khatanzorig)の衣装には、従来型のデールの立て襟がついていない。実は、彼らが着ているのは、近年、中世モンゴルや匈奴時代を意識した復古調のデールである。近年、モンゴルではナショナリズムが高まる中、満洲的な要素である立て襟を排除した、いにしえのデールを再現し着用する人々が出てきた。その起源が匈奴時代に遡ることが出来ることから、一般的に「匈奴デール」と呼ばれるようになった。ちなみにチンギス・ハーンの時代のデールも立て襟がなかった。

 さらに興味深いことに、秘密組織「テント」のメンバーの多くが、この匈奴デールを着用している。ノゴーン・ベキ(役所広司)、ノコル(二宮和也)、バトラカ(林泰文)、そしてなぜか薫までもが立て襟なしの赤い匈奴デールを着用している。その理由は、本稿を執筆している2023年9月6日時点では、定かではない。

ノコル(左・二宮和也)とベキ(右・役所広司)(『VIVANT』公式SNSより)
『VIVANT』公式HPより

 というのも現実のモンゴルやカザフスタン在住のムスリムたちは、この格好をしないからだ。その多くはカザフ人であるが、彼らには独自の衣装がある。一般的にチャパンと呼ばれる刺繍入りの黒いコートをまとい、タキヤと呼ばれる平たい円筒形の帽子を被るのである。カザフ人女性も顔を覆い隠すことはしない。

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デールを着た都会の女性たち(ウランバートル市、2015年、B.オトゴンチメグ氏提供)

 いずれにせよ、衣装においても実在の衣装とは異なるのみならず、誰が見てもイスラーム教徒だとわかる衣装をつけているのが、バルカ共和国におけるムスリムの特徴だといえる。

 さて、ここまで「地理」や「衣装」から読み解ける『VIVANT』とモンゴルの関連を紹介してきたが、まだまだこれだけでは終わらない。二階堂ふみの発音が印象的な「言語」、二宮和也のノコルがもつ「意味」、堺雅人のある行動に驚きを隠せない「食事」、そしてこの『VIVANT』というタイトルは——。(後編に続く

《写真多数》

『VIVANT』の迫力ある場面写真とモンゴルの貴重なショットをまとめて見る

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 9月6日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」および9月7日(木)発売の「週刊文春」では、「文春“別班”が本気で追った『VIVANT』9つの謎」と題し、堺雅人や二階堂ふみ、阿部寛ら主要キャストの知られざる秘密など、7頁にわたって同作の大特集を掲載している。さらに「文春オンライン」でも、『VIVANT』に関する記事を多数配信する予定だ。

憑依と抵抗

島村一平

晶文社

2022年3月29日 発売

「水を飲まなくても…」モンゴル研究者が『VIVANT』に指摘したい“あるシーン”とは

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