(2)放送開始まで内容を伏せた
『VIVANT』は初回放送まで、ストーリーやキャラクター設定などの情報を宣伝せずに伏せるという手法を採用していました。
早い段階から堺、阿部、役所、二階堂、松坂の5人がスーツとドレスを着て立ち並ぶポスタービジュアルは公開されていましたが、これはあくまでイメージショットで、本編の物語とはほぼ無関係。
2カ月半におよぶモンゴルロケが行われたといった情報は出ていましたが、CMや番宣などでもストーリーについてはほぼ明かされないまま、初回の放送当日を迎えていたのです。
作品の内容を明かさないというのは、昨年12月公開の映画『THE FIRST SLAM DUNK』や、今年7月公開の映画『君たちはどう生きるか』にも通ずるところがありますが、ハイリスク・ハイリターンの方法とも言えます。
ストーリーを明かさないことで期待値が高まり興味を抱かせたり、放送後にSNSなどで口コミが一気に拡散されたりするメリットが期待できるでしょう。一方で、認知度が低いままスタートすることになるリスクがあり、通常の宣伝をしていれば観てくれたであろう層を囲い込み損ねるデメリットもあります。
よほど作品自体の面白さやブランド力に自信がないと取れない、ストロングスタイルの戦略なのです。
『VIVANT』第1話が視聴率11.5%と微妙な数字でスタートしたのは、情報が周知しきれなかったデメリットの影響があったのかもしれません。しかしその後、視聴率や無料配信の数字がどんどん伸びていったことを考えると、そのハイリスクの賭けに見事勝ったと言えるでしょう。
(3)作品名を“隠れ蓑”にしていた
※本稿は『VIVANT』第8話までのネタバレを含みます。
ここからはいよいよ『VIVANT』のストーリーに秘められたヒットの理由を分析していきます。
タイトルになっている「vivant(ヴィヴァン)」というフランス語は、「生きている、命のある、生き生きした、活発な、活気のある、溌剌とした」といった意味を持つ言葉。ですが現状では、極論を言うとこの言葉とストーリーにたいした関連性はありません。
『VIVANT』とは、真のテーマを隠すための隠れ蓑のように付けられたタイトルなのです。実際、タイトル名を聞いて、本作がどんなキャラクターたちを描く物語なのかを予想できた人は、ほぼいないでしょう。
さて、本作は“自衛隊の陰の諜報部隊”と呼ばれる「別班(べっぱん)」の活躍を描く物語でした。
ただ、それがきちんと明らかになるのは第4話の後半。それまで視聴者は、なぜ『VIVANT』というタイトルなのか、その理由が不確かなまま、ストーリーを追いかけていたのです。