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さあ麻雀だ、 徹夜だぞ

 退院は2週間後。みぞおちからへそまでの大きな手術痕から想像し、あと1週間は居なければならぬだろうなと思っていただけに、正直、天にも昇る気持ちだった。

 バンザイ、である。ホテルの方に連絡し、私は腹を平手で押えながら病院の外へ出た。
 2週間。寝たきり。

 それだけなのに、人間の能力は、何とガタ落ちするのだろうと私は目を見張った。生理学の専門家だから、使わないと、筋肉は3日間の内に退化を始め、などと説明したりする。筋肉だけではなかった。 

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 ホテルへのタクシーの中で、私は目まいがし、窓の外を流れる風景に目をぱちくりした。

 ホテルの入口で、 

「停めて! 停めて!!」

 と、私は大声で叫んでいた。折から、サクラが満開だった。日の光を浴び、一輪一輪がくっきりと咲き誇っている。

 何という美しさだ。そうか、おれは、こういう美しいものがあるシャバに帰ってきたのだ。死ぬのは、やはり嫌だ。

 ロビーには、悪友が3名待っていた。園山俊二を筆頭に、麻雀の仲間である。

「やあやあ、おめでとう。悪い所を除っちまったのだから、さあ、これからお祝いだ」

「そうよ。1週間前から、仕事を前倒しして時間を作ったんだからね」

「奥さん、悪いけど、旦那をちょっと借りますよ。なあに、すぐ終わりますから」

 私たちは、新宿の雀荘へ向かった。漫画家たちが集まる行きつけの店だということだった。店は3階にあったが、腹が突っ張った感じで、かなり痛く、これで打てるのかいなと心配になった。

©文藝春秋

相手の手牌が透けて見える

 雀卓についた。

 牌が配られる。

「うーん、これだよね。そう、麻雀」

 私は、自分の配牌をなでさすりたくなった。一牌ツモってきて、一牌切る。腹の筋肉がヒクン、ヒクンと痛んだ。

 皆は、雑談しながら打つ。

「ハタさんが東京に出て来てるってさ。でもよ、ぼくたちに連絡がないんだもの。なにしてたんよ」 

「そうそう。ホースケ(福地)は怒ってたね。でも、園山さんから連絡がまわり、だったら、退院の日には絶対打とうとなったんだよ」

「そうそう。竜ちゃん(北山)なんか、入院して弱ってるだろうから、叩きのめすチャンスだとか言ってたね」

 ゲームは進んでいく。結果は、卓にそなえつけられた紙に記していく。

「はい。3900」 

 私は、牌を倒した。

 面白かった。それまで経験したことのない麻雀だった。アガル道筋が見えた。相手の手牌が透けて見えた。

 私は、勝ち続けた。

 面白いな、うん、面白いと徹夜になった。私は、退院の日、麻雀に誘ってくれた3人の友情に感謝した。