25年も前に作られた、わずか81分のそのアニメ映画のパンフレットは、たった2枚の紙を折られて作られていた。B3の巨大な紙を2枚重ねて2つに折り、ホチキスでとめて8ページの体裁にしてあるだけで、中身も映画の映像の再利用とスタッフの一覧。劇場で売るにはいささかシンプルすぎるパンフレットだ。
だが25年の時が流れた今、そのパンフレットは中古で高値がつき、求める者が後を絶たない。それは2010年に早逝した今敏の初監督作品、9月15日から全国劇場でリバイバル上映される名作アニメ『パーフェクトブルー』の1998年版パンフレットだからだ。
たった8ページしかないのには理由がある。『パーフェクトブルー』は本来、映画館で公開するはずではなかった。今敏が存命中にオフィシャルサイト「KON'S TONE」で制作当時を振り返ったブログ「パーフェクトブルー戦記」(以下「戦記」)には、当初の企画が書かれている。
《プロデューサーから作品の規模や内容についての概要を聞く。この時点で70分のオリジナルビデオで、予算9000万(音響制作費を除く)であること、及びキャラクターデザインは、原作者竹内氏の要望で江口寿史氏ということだけは確定していた》
80年代後半から90年代にかけて盛んに作られたOVA(オリジナルビデオアニメ)。テレビでも映画館でも公開されない、アニメファンが購入、もしくはレンタルビデオで消費するアニメを指す。『パーフェクトブルー』もそうしたOVA作品のひとつとして作られ、そして、忘れられていくはずだった。
だが前述の「戦記」から今敏本人の言葉を引用すれば、《スケジュール的にあまりに無理が多いことと、内容的に自分には合わないということで断ろうかとも思ったのだが、“初監督”という魅力に釣られてしまった》。
だが、当初はアニメファン向けのOVAとして日本国内で消費されて終わるはずだったこの作品は、初監督作品とは思えない今敏の卓越した才能、そしてのちに日本を代表するトップアニメーターの1人になる本田雄の途中参加などで大化けしていく。プロデューサーは作品をOVAから劇場公開映画に引き上げることを急遽決める。
声優・岩男潤子との出会い
予定外の低予算で作られたであろうパンフレットには、わずか2人のインタビューしか掲載されていない。1人は監督の今敏。そしてもう1人は、主人公の霧越未麻を演じた声優・岩男潤子だ。
インタビューというにはあまりに短い、コメントのようなスペースしか与えられていないそのパンフレットで彼女は、《演じたというよりも、未麻になっていたという方が正しいかもしれません》と語っている。
『パーフェクトブルー』の主人公・霧越未麻はアイドルグループを脱退し、女優を目指す中でヌード撮影の強要やストーカー被害に遭う。岩男潤子もまた「セイントフォー」というアイドルグループを脱退し、声優の世界に入った経歴を持っている。