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アメリカ人の常識「原爆投下は正しい」が揺らいだ…若者に刺さった映画『オッペンハイマー』の影響か

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genre : ニュース, 国際, 映画

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人種が多様で、情報は自分から取りにいく世代

原爆についてもっと知りたいという若者の態度は、アメリカニズムに対する懐疑的な姿勢にもつながっている。

アメリカ人にとって原爆投下は、大きな歴史上の汚点としてネイティブアメリカンの虐殺や奴隷制、ベトナム戦争などとも並ぶ大きな事件だ。誰もが、自分の国がこのような残虐行為におよんだことを信じたくないし、できれば触れたくない。特に愛国心を重視し、白人中心の歴史観を展開してきたアメリカでは、こうした歴史に正面から向き合うことを避けてきた部分がある。

しかし、歴史を知らなければ問題は解決できない、先に行けないという思いが、今アメリカの若者の間に急速に広がっている。ネット時代になり、必要な情報は自分から取りにいけるようになったことも大きい。

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例えば、ブラックライブスマター運動は黒人が始めた運動だが、若者の人種的な多様化が急速に進む中、若いZ世代の白人の多くは肌の色が違う友人に囲まれて暮らしている。「自分たちの先祖が犯した罪をきちんと知らなければ、ダイバーシティの国として先に行けない」という強い思いを持つ人も増えた。だからこそ人種を超えた歴史的な運動になったのだ。

ナショナリズム的な歴史教育が変わってきている

歴史教育も変わってきている。アメリカでは日本のように検定された共通の教科書を使わない。ガイドラインはあるが、内容も教材も先生の裁量に任されている。

そのため原爆についての教育もさまざまだ。たいていの小学校の授業で習うのは「Sadako & The One Thousand Paper Cranes(サダコと千羽鶴)」。アメリカ人著者のエレノア・コアが1977年に出版した、2歳の被爆者佐々木禎子の悲劇を描いた物語である。

またアメリカには、日本人被爆者の語り部がわずかだが生存し、高校などを回って原爆の恐ろしさを伝え続けている。また、彼らのビデオなどの教材は、政府のウェブサイトも含め大量に存在し、先生が自由に使うことができる。