8月は日本人には少し特別な月――「死」を想うことの多い季節です。

 お盆に亡くなった人を偲ぶのと同時期に、終戦記念日を迎えるからです。無謀な特攻命令、沖縄の地上戦、広島・長崎への原爆投下などにまつわるストーリーが毎年報道され、悲惨な記憶がえぐり出されます。この時期、戦争にまつわる番組や書籍にふれ、今の平和な暮らしとはかけ離れた時代を想像して不安になるお子さんもいるでしょう。「日本は戦争なんかしないよね?」と聞かれたら、さて、大人はどう答えたらいいのでしょうか。『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』(主婦の友社)を2023年6月に上梓した池上彰氏が解説します。

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誰もが納得する「正しさ」はどこにもない

 太平洋戦争の終戦から80年近く。これほど長く戦争をしないできた国は、世界的にも珍しいのです。その礎のひとつは平和憲法であり、もうひとつはアメリカとの友好関係でしょうが、謳われている「戦争放棄」の解釈や評価はさまざまに揺れ動いています。

 戦争・紛争に関する意見の違いはどこにでもあって、世界各地で起きている争いの当事者にもそれぞれに理由があります。こちらの言い分が正しい、あちらの主張ももっともだとウロウロしているうちに、「戦争は悪である」ということすら怪しくなってきます。誰もが納得するスッキリとした正しい答えは、どこにもありません。

 正解はないけれど、よりよい方法は何なのか? 子どもたちには、ぜひそういうことを考えてほしい。親ができるのは、そこにわが子を導いてやることだと思います。それは、自らの人生を豊かにする「教養」を身につけることにつながるからです。

激動の時代を生き抜くための武器を持たせよ

 ところで、教養とは何でしょうか?

 私はそれを、「知識の運用力」だと考えています。

 世の中には、難しいクイズにすいすい答える人がいます。いろいろなことを知っているのは結構ですが、それが単なる物知りにとどまっているのでは、教養とは言えません。手に入れた知識を暮らしに生かし、よりよい行動につなげていけるのが教養です。