手話でろう者と聴者をつなぐ「手話通訳士・荒井尚人」を主人公にした小説『デフ・ヴォイス』(文春文庫)でデビューした丸山正樹さん。このたび続篇『龍の耳を君に』(東京創元社)を上梓した。
「前作は手話のことは何も知らず、本で調べたことだけで書きましたが、ろう者の方々から強い支持をいただきました。続篇希望の声もあり、緘黙症(かんもくしょう/言語能力はあるのに話すことができない症状)の人が手話で話したらどうだろう、というアイデアがずっと頭にありまして、今回一気に書き上げました」
発達障害「自閉症スペクトラム」であり、場面緘黙を併発している少年が物語の軸だ。
「意図的に“マイノリティーを代弁”しているつもりはないのです。ただ、私自身、50歳目前でやっとデビュー出来ましたが、その後も作品が何度もボツになった。私生活でも家族の介護を長年続けていて、息切れすることがあります。どこかに、“世間”“大多数”というものへの鬱屈した思いはあるのでしょう」
荒井と同居する恋人の警察官・みゆきとその娘との人間模様も読みどころだ。
「血縁だけが家族じゃないし、家族愛が至上のものとも思っていません。自分の考える“家族小説”という色を少しは出せたかな」