1ページ目から読む
4/4ページ目

プロポーズは竹下景子から

 竹下はシベリアンハスキーの仔犬を飼い始めたものの、1ヵ月もしないうちにオオカミみたいに大きくなってしまった。一人暮らしで、ロケなどで家を留守にすることも多いだけに、考えた末、関口の事務所に預かってもらうことにした。こうして2つの家を行き来するようになったケイスケというその犬に、彼は愛情をもって接してくれた。やがて竹下のほうから「ケイスケのお父さんになってください」とプロポーズするにいたる。

 結婚後も仕事を続けるつもりでいた彼女は、関口が「いつも帰りを待ってる奥さんじゃないほうがいい」と言ってくれたので助かったという(『週刊ポスト』前掲号)。その後、子供も二人儲けたが、『クイズダービー』は産休後も復帰させてくれ、俳優としても妻を演じる機会も増えた。

倉本聰と竹下景子 ©文藝春秋

 60代に入る頃には、NHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』(2010年)でマンガ家・水木しげるの母親を晩年まで演じるなど老け役も目立つようになった。2020年、NHK-BSのドラマ『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』で70代の女性を演じるに際しては、白髪を染めるのをやめた。彼女によれば、《すると、ひとつカセがはずれたような気分になり、役にスムーズに入れたんですよ。以来、そのままなんですが、何だか息がしやすくなったというか、等身大の自分に近づいていくという感覚を味わっています》という(『ゆうゆう』2021年10月号)。

ADVERTISEMENT

「普通」という魅力

 思えば、彼女がこれまで演じてきた大半は、等身大の普通の人物である。『モモ子シリーズ』で演じた風俗嬢にしても、設定自体は竹下自身とはかけ離れているとはいえ、どんなに凶悪事件に巻き込まれようとも普通っぽさを失うことがなかった。

《私は、天性の女優とか、“狂気”のように役に入るとか、演じていないときは抜け殻になるタイプとはほど遠い。この職業には向いていないかも……と思ったこともあります。/でも、いろいろな役者がいて、それぞれの演じ方があっていい。私はいつも、私だったらどうするかなと考えながら演じるんです》という本人の言葉(『婦人公論』前掲号)も、女優・竹下景子の真骨頂は普通の人を演じることにあると裏づけるようだ。

『クイズダービー』をはじめ、1997年まで15年間に計8本がつくられた『モモ子シリーズ』や、2002年まで21年間、主演の田中邦衛の義妹役を演じたドラマ『北の国から』(倉本聰脚本)といい、さらには西田敏行とのコンビで現在までに15年続くNHKラジオの『新日曜名作座』といい、彼女の出演作には長寿作品が少なくないが、それもおそらくその普通さゆえ、人々を飽きさせないからだろう。もっとも、これだけ長きにわたって普通の人を演じ続けるのは、やはり普通のことではない。