文春オンライン

「まったく生気のない表情だった…」上島竜兵が亡くなる2日前、妻が気づいた“小さな異変”

『竜ちゃんのばかやろう』転載 #1

2023/10/06
note

「まあいいや……」と、気を取り直し、何かおいしいものでも食べてもらおうと、私は自室の竜ちゃんに声をかけず、スーパーへ買い物に出かけました。

 栄養のつくもの、新鮮なお野菜、そして竜ちゃんの好きな食材をあれこれ買って帰ってくると、いきなり竜ちゃんから声をかけられました。

「どこに行っていたんだ?」

ADVERTISEMENT

「スーパーに行ってたんだけど」

 そう答えると、すごく機嫌が悪そうでした。

「お昼ご飯、おいしいものを作るから、ちょっと待っててね」

 ところが竜ちゃんは、近所のファミレスに食べに行きたいと言い出したのです。

 でも私は竜ちゃんの体のためにも、手料理を食べさせたかったので、やんわりと言い返しました。

「だったら、ファミレスみたいなものを作ってあげるから、家で食べようよ」

 すると竜ちゃんは、あからさまに一層不機嫌な顔をして、無言で自室に入ってしまいました。

 とりあえず、私は竜ちゃんが好きな「北海道生ラーメン」の味噌味を、もやしやねぎなど野菜をたっぷり入れて作り、声をかけると幸い素直に部屋から出てきてくれました。

孤独感がストレスに

 糖尿病だった竜ちゃんは、効果があるのかどうかはわからないものの、野菜ファーストのイメージで血糖値が急上昇しないよう、食事の前にトマトジュースを飲むことが習慣になっていました。

 最初はコップ1杯飲ませていましたが、その頃はトマトジュースに飽きてしまって、すっかり嫌になっていた頃でした。私が勧めても、トマトジュースを飲まないならまだしも、テーブルの上にたまたまあった、かりんとうを食べようとしたのです。

「それなら一口、トマトジュースを飲んでからにしてよ」と注意すると、竜ちゃんは「じゃ、いらないわ!」と、キレてかりんとうを私に投げつけました。

 とにかく機嫌は最悪。味噌ラーメンも、「もういらない」と言って少し残してしまいました。

 この日、東京の自宅にいた竜ちゃんは、後輩たちと、Zoom飲み会をしたかったようですが、連絡を取ったけれど、誰もスケジュールが空いている人がおらず、実現できずじまい。それがとても寂しく、孤独感を強めたのかもしれません。

 あとでこのときの後輩たちは、「なんで断っちゃったんだろう」「あのとき、いつもみたいに飲み会をしていれば……」と、後悔を口にしていました。でも、そのときはまだ最悪の結果が訪れようとは、夢にも思っていませんでした。

竜ちゃんのばかやろう

竜ちゃんのばかやろう

上島 光

KADOKAWA

2023年8月10日 発売

「まったく生気のない表情だった…」上島竜兵が亡くなる2日前、妻が気づいた“小さな異変”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー