「まあいいや……」と、気を取り直し、何かおいしいものでも食べてもらおうと、私は自室の竜ちゃんに声をかけず、スーパーへ買い物に出かけました。
栄養のつくもの、新鮮なお野菜、そして竜ちゃんの好きな食材をあれこれ買って帰ってくると、いきなり竜ちゃんから声をかけられました。
「どこに行っていたんだ?」
「スーパーに行ってたんだけど」
そう答えると、すごく機嫌が悪そうでした。
「お昼ご飯、おいしいものを作るから、ちょっと待っててね」
ところが竜ちゃんは、近所のファミレスに食べに行きたいと言い出したのです。
でも私は竜ちゃんの体のためにも、手料理を食べさせたかったので、やんわりと言い返しました。
「だったら、ファミレスみたいなものを作ってあげるから、家で食べようよ」
すると竜ちゃんは、あからさまに一層不機嫌な顔をして、無言で自室に入ってしまいました。
とりあえず、私は竜ちゃんが好きな「北海道生ラーメン」の味噌味を、もやしやねぎなど野菜をたっぷり入れて作り、声をかけると幸い素直に部屋から出てきてくれました。
孤独感がストレスに
糖尿病だった竜ちゃんは、効果があるのかどうかはわからないものの、野菜ファーストのイメージで血糖値が急上昇しないよう、食事の前にトマトジュースを飲むことが習慣になっていました。
最初はコップ1杯飲ませていましたが、その頃はトマトジュースに飽きてしまって、すっかり嫌になっていた頃でした。私が勧めても、トマトジュースを飲まないならまだしも、テーブルの上にたまたまあった、かりんとうを食べようとしたのです。
「それなら一口、トマトジュースを飲んでからにしてよ」と注意すると、竜ちゃんは「じゃ、いらないわ!」と、キレてかりんとうを私に投げつけました。
とにかく機嫌は最悪。味噌ラーメンも、「もういらない」と言って少し残してしまいました。
この日、東京の自宅にいた竜ちゃんは、後輩たちと、Zoom飲み会をしたかったようですが、連絡を取ったけれど、誰もスケジュールが空いている人がおらず、実現できずじまい。それがとても寂しく、孤独感を強めたのかもしれません。
あとでこのときの後輩たちは、「なんで断っちゃったんだろう」「あのとき、いつもみたいに飲み会をしていれば……」と、後悔を口にしていました。でも、そのときはまだ最悪の結果が訪れようとは、夢にも思っていませんでした。