「55年やってきましたからね。仙台の人たちは、3世代にわたってベニーランドに遊びに来てくれているんです。昔は子どもだった人が親になってまた子どもを連れてきて、今度は孫と。仙台以外でも、東北の小学校は6年生が修学旅行で仙台に来るんですよね。そのときにベニーランドにも来てくれるんです。だから、東北の人たちは、ベニーランドに来たことがある人、多いと思いますよ」(八木園長)
取材に訪れたのは夏休みも終わった9月の平日、それも午前中。だから園内のお客はまばらだ。子ども連れのファミリーが数組いるくらい。
ただ、お昼前になると修学旅行とおぼしきグループ客の姿も見えるようになった。ベニーランドほどの遊園地を持たない地域の人たちにとって、仙台への修学旅行、その中でのベニーランドは、特別な想い出になるに違いない。
耳に馴染んだテーマソング、“気がつくと行っている場所”…「ベニーランド」がある町
「首都圏と違って東北には大型テーマパークはないですからね。その代わり、ベニーランドがあるんです(笑)。ただ、1993年以降は冬の時代でして、なかなか苦労しました。コロナ禍ではマイクロツーリズムなどといって近隣のレジャーとしてベニーランドに来られる方もいましたが、いまは行動制限もなくなってみなさんもっと遠くまで行ってしまうんですよ」(八木園長)
東京のとしまえんが閉園したことからもわかるとおり、ベニーランドのような昔ながらの遊園地にとっていまの時代はなかなかに厳しい。小さい子どもならまだしも、20代の若者たちがディズニーではなくベニーランドを選ぶかというと、正直難しいところだろう。ただ、ベニーランドにはベニーランドの良さがある。
「3世代にわたってここで遊んでくれていて、テーマソングはみんな知っている。仙台の人たち、東北の人たちにとっての心のふるさと、じゃないかと思っているんです。なつかしいけど新しい、そういうことをマイナスじゃなくてプラスに捉えて、また次の世代、4世代5世代と続いていけばうれしいですね」(八木園長)
ベニーランドのテーマソングは仙台の人々の心のメロディ。そしてベニーランドは心のふるさと。戦前に八木久兵衛さんが“市民のためになるように”と八木山を買い取って仙台市に寄付をしたというその心意気は、ベニーランドにも生きている。心のふるさとが山の上から町を見守り続けるのが、仙台という町なのである。
写真=鼠入昌史
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