鳥栖の市立中学校に通っていた佐藤和威さん(24)に対するいじめが発覚したのは2012年10月だった。そのため和威さんは、毎年10月になると精神的に不安定になりやすいという。

「地元では10月に秋祭りがあり、夕方から夜にかけて秋祭りに向けた練習でスリガネの音が響きます。加害者たちに連日夜まで連れ回され、恐喝され、暴力暴行を受けていた兄に、響くスリガネの音がどのように聞こえていたのだろうかと思います。スリガネの音を聞くと、兄は耳を強く押さえます。スリガネの音が聞こえないようにと、両耳を引き切ろうとすることもあります」(和威さんの妹のA子さん)

中学時代に受けたいじめのPTSDに今も苦しむ佐藤和威さん

「いじめを通り越して犯罪に等しいと思っている」

 和威さんへのいじめが発覚した後、学校が行った聞き取り調査を経て、約4カ月後の13年2月に鳥栖市教育委員会は保護者説明会と記者会見を開催。そこで学校側は和威さんへのいじめを認め、教育長も「いじめを通り越して犯罪に等しいと思っている」と謝罪した。

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 その年の9月にはいじめ防止対策推進法が施行されたのを受けて、和威さん側は「いじめ重大事態」として調査することを鳥栖市に要望した。

 いじめがあり、それに関連して不登校や自殺未遂、金銭が奪われるなどの事態が発生すると「重大事態」と認定される。和威さんは加害生徒たちに100万円以上を奪われており、自殺未遂にも及んでいたが、鳥栖市は「いじめ重大事態」を認定せず、「いじめ問題等支援委員会」という例外的な組織での対応をすることになった。

地裁判決後に、記者会見に臨んだ佐藤さん

「いじめ問題等支援委員会が開かれることになったのですが、焦点は兄が学校に通えるようになることではなく、『この問題を収束させること』でした。兄のいじめを主張した母親について(一度も会ったことのない委員が)『母親は難しい人だろう。病理性を感じる』と、主張の信ぴょう性を下げるような文書も発表しています」(A子さん)

 委員会は和威さんが受けたいじめの存在は認めたが、「学校が気づくのは不可能である」と、学校の責任を否定した。

「兄のいじめに限らず、先生方は学校でクラスの様子をよくみていれば気づけることも多いのではないかと思うんでます。兄の件で、両親は学校に『対応できないのであればいじめ問題などに対応する専門の人材を設置する、専門の方々にお話を伺うなどの具体的な対策をしてほしい』と何度もお願いしています」(A子さん)