十分な調査が行われずにいじめ問題がうやむやになったこともあり、発覚から10年以上がたった今も、和威さんは心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんでいる。2015年には元同級生8人と保護者、鳥栖市を相手取り約1億2800万円の損害賠償を求める裁判を開始し、2022年7月12日付で判決が確定している。
裁判では、元同級生8人に合計約400万円の支払いが命じられたが、鳥栖市の責任は認められなかった。
全体としてある程度の事実は認めたが、いじめやそれに伴う違法行為の範囲を狭く判断し、たとえば「教室で行われたプロレスごっこ」について、「殴る蹴るといった暴行、首ロック、ヒザカックンなども含まれる」としつつ、「中学1年生男子の間の遊び」であり「通常、身体的な接触行為により一定の苦痛を受けることを承諾していたといえる」として、不法行為として認めていない。
しかし判決後、和威さんはこう憤った。
「プロレスごっこ? そんなの知らないし、誰もそんな名前をつけていない。(裁判での)加害者の証言で初めて出てきた。仮に言われていたとしても、頭に入っている心理状態ではない」
周りにいじめだと気づかれないように「笑え」と命令
裁判では、加害者の1人に現金を手渡す場面が映った防犯カメラ映像も証拠として提出された。しかし判決では「原告和威を脅す様子はなく、怯えている様子は見られない」「度々笑顔を見せており、その笑顔は、その場しのぎのものではなく、いたぶられるような心理状態になったとは見受けられない」とした。
しかし、この点についても和威さんは否定する。
「周りにいじめだと気づかれないように、『笑え』っていつも言われていたんです。それもかなり最初の段階から言われていました。僕は、どうせ殺されるんだ、と思っていた」