天才少年俳優・神木隆之介
最近の朝ドラは、新人のフレッシュさだけでは対応できない。清濁併せ持った演技のできる巧者でないと務まらない。その点、神木は5歳のときデビューし、天才少年俳優と称された才人である。デビュー後、そのまますくすく俳優として成長し、才能を発揮し続けた。
注目されたのは映画『桐島、部活やめるってよ』(12年)の、映画を愛する高校生という、共感性の高い役だった。ほかにも、声優をつとめたアニメーション映画『サマーウォーズ』(09年)の内気だが数学の才能のある高校生役や、『君の名は。』(16年)の、とんでもない事態に巻き込まれたごく普通の青年役など、実直な市井の青年のイメージが定着し、好感度が高い。
じつは神木隆之介の真価は、“恐るべき子供”役にもあった。例えば連ドラ『QUIZ』(00年 TBS)の誘拐された少年、そして映画『20世紀少年 最終章』(09年)のカツマタ、さらに、『SPEC』シリーズの一+一(ニノマエジュウイチ)など、物語の影となる重要な役を担ってきた。
何を考えているのか底知れない、若く未分化ゆえのおそろしさを、若さという等身大で表現するのではなく、一歩引いた視点を持ち、技巧もこらして演じてきたのである。だから、万太郎のことも、凡人には理解できない天才植物学者の常識からの逸脱を、ちょっと危うい路線で演じることも可能だっただろう。でも朝の顔としては、恐るべき少年性(行き過ぎた純粋性)はふさわしくないという判断をしたことは実に賢明であった。
筆者は、『20世紀少年』のオフィシャルライターをやったとき、神木の演技を近くで見学したのだが、カツマタくんがゆっくりかすかに微笑む表情が見事過ぎて驚いた。いわゆる顔芸の、極端に変化させるものではない、ハイスピードカメラで撮ったかのような、かすかな表情の変化はよっぽど意識的でないと難しい。高度なのである。
続いて『SPEC』シリーズでも筆者はオフィシャルライターとして、書籍『SPEC全集記録』で神木にインタビューをした。そのとき、ニノマエの4人のクローンを4通り演じ分けたと話していて、能動的に仕掛けていく俳優なのだと感じた。
『あさイチ』で語られた神木の計算と経験
神木隆之介の技巧といえば、『あさイチ』ではこんなことも語られていた。万太郎が寿恵子にときめく恋心を表す独特のセリフ「ズギャン」は、台本にあったものを神木が「世に出したかった、かわいらしい表現を」と思って口にしたのだそうだ。
“「(ズギャン)」だったんです。(中略)これ、言っちゃおうかなって思って。すごくかわいらしい表現だなと思ったんで。キュンとかじゃなくてズギャン。ぼくがふつうのリアクションしたらもったいない。絶対、俺『ズギャン』を言うと。監督にほんとうに言う?と聞かれて”
「世に出したかった、かわいらしい表現を」というのは、万太郎が、未だ知られていない植物を図鑑にして世に出したい気持ちとも重なって見える。技巧派なだけでなく、心情から役になっているのではないか。さらに、括弧付きの(ズギャン)は「芝居の途中だったので高確率で切られないだろうなと」という計算も見せる。芝居の前後に俳優独自のアイデアを入れるとカットされる可能性があると長年の経験からわかっている。