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少年性の壁を突破して新たなターンに

 天才少年から天才青年へ、その小柄な見た目から、永遠の少年性を体現してきたかのような神木も『らんまん』の撮影中の5月に30代になった。auのCM「意識高すぎ!高杉くん」シリーズでは高校生をやり続け、似合っているのだが、近年、社会人の役も増えている。少年性を売りにしてきた俳優はいつかどこかで転換をはからないとならないものと思うが、それについてどう思っているのか、2020年にインタビューで聞いたことがあった。

 WOWOWの連続ドラマW『鉄の骨』で入社4年目の会社員役を演じたときの取材で、筆者の質問に彼は「できれば大人になりたくない」と答え、「福山雅治さんの『生きてる生きてく』という歌に、“子供は大人になれないが大人は子供に戻れる”というような歌詞があって、共感しています」と述べた(『月刊スカパー!』20年4月号より)。福山の話を挙げたわけは、ちょうど、映画『ラストレター』(20年)で福山が演じた役の青年期を演じていたからかもしれないが、この回答はじつにソツがないうえ、真理を射抜いている。

©文藝春秋

 万太郎と違って、十分、大人の気遣いのある神木。だから彼が『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(21年)で緒方恵美が95年から演じてきた主人公・碇シンジが大人になった声を演じたことはひじょうに興味深い。あのナイーブなシンジくんが少年期を過ぎ、大人になったら「胸の大きいいい女」なんてセリフを言ってしまう。そういう演技を任された神木隆之介の肉体や肉声はいつまでも変わらないようでいて、着実に生物的に変化をしているのだろう。

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『らんまん』で神木は万太郎の60代まで演じることになり、終盤は白髪になり顔にもシミメイクなどがほどこされたりしている。植物採集するときは植物に敬意をはらってスーツに蝶ネクタイと正装していく万太郎には、いつまでも若く朗らかで妖精のような雰囲気があるとはいえ、人間は皆、変化し、老いるものだ。

 その老いを演じることで、神木隆之介は少年性の壁を突破して新たなターンに入ったとも見えるし、同時に、いつまでも妖精的な人を演じられる稀有な俳優であることを改めて印象づけたともいえるだろう。俳優・神木隆之介の未来に祝福あれ。