“朝ドラ”こと連続テレビ小説『らんまん』(NHK)の主演・神木隆之介は、堂々と朝ドラ主演をやり遂げた。朝ドラの主人公で重要なのは、兎にも角にも「好感度」である。ともすれば、嫌われそうな主人公の属性をマイルドにすることに神木は成功した。
神木による「万太郎の毒を薄める」努力
長らく、朝ドラヒロインの三原則は「明るく・元気・さわやか」であったが、令和になると、朝ドラでも、主人公の暗さやすこし毒のある面も描かれるようになっていく。だが、それには塩梅が大事で、行き過ぎると嫌われてしまう。『らんまん』の槙野万太郎(神木)は嫌われる危険を伴う役であった。
万太郎は、好きな植物研究をするためにまず太い実家に頼り、実家が経済的に破綻すると、妻・寿恵子(浜辺美波)の働きに依存。そのうえ、マイペースで、他者への気遣いが薄く、大事な局面で怒らせてしまうこともしばしば。明るく元気で、悪気はなく、すべては度が過ぎるほどの植物愛の強さゆえとはいえ、身近にいたらイラッとしそうな要素が満載であったのだ。
神木もそれを認識し、対処していたことが明かされたのは、ゲスト出演した情報番組『あさイチ』(NHK)のプレミアムトークでのことだ。番組では、万太郎の疑問に感じる部分を「働かない、金遣いが荒い、借金する、家を空けがち」の4点、挙げた。確かにこれは視聴者的に応援できない要素の代表格である。
お金を大事にしない人物や、我の強い人物は、朝ドラで好まれない。そのため神木は、演技のニュアンスを気遣い、寿恵子役の浜辺美波や、相棒・竹雄役の志尊淳などと打ち合わせをしたうえで、万太郎の毒を薄めようと努力していたそうなのだ。
万太郎はあくまで滅私の心で、植物を世の中に、適切に知らしめる使命として研究を行い、それによってときには他者を傷つけてしまう。神木もまた、自分が視聴者から嫌われることを厭うのではなく、あくまでも朝ドラのために努力したのではないだろうか。
万太郎が嫌われると、朝ドラは嫌われる。ひいては、モデルの牧野富太郎も嫌われる。そうならないように、おかしなところもあるけれど、人間にはいいところもあれば困ったところもある。その配分を精密に理解することが、人間ひとりひとりを認めあうことなのだという真理を、神木隆之介の演技は示してみせたのだ。これは誰でもできることではない。93年生まれで、95年にCMデビューして、芸歴28年もの芸歴を持つ神木だからこその功績である(俳優デビューは99年)。