連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合ほか)の勢いが止まらない。7月に入り、ドラマは折り返し地点を過ぎたが、ファンの視聴熱はさらなる盛り上がりを見せている。本作は、「日本植物学の父」の異名をとる牧野富太郎氏をモデルに、主人公・槙野万太郎(神木隆之介)が、明治の時代には前人未踏であった植物学の道を極めていく物語。
今週放送された第16週「コオロギラン」では、東京大学植物学教室の仲間である藤丸(前原瑞樹)が学内にはびこる競争意識に疲れ、自分の行くべき真の道を探すために、休学という選択をした。一方で、同じく植物学教室の波多野(前原滉)は、肉眼では見えない「命をつかさどる仕組み」という、独自の研究を進めていた。
教室専属の画工・野宮(亀田佳明)は、教授の田邊(要潤)から、万太郎の植物画と同等か、それ以上の水準に達していなければ用無しだと言い渡される。途方にくれる野宮だったが、波多野は彼を、自らの新しい研究の相棒として誘う。こうして今週もまた、それぞれの人物が、それぞれの“特性”にあった場所を見つけて、花を咲かせようとする姿がみずみずしく描かれた。
ひとりとして同じ人間はおらず、誰しも生きる理由と、生きる場所がある。「雑草という草はない」という万太郎の信条(牧野富太郎氏の名言でもある)と符合する、こうした「哲学」が、このドラマにはいつも貫かれている。
また、7月21日(金)の放送の80話では万太郎と寿恵子(浜辺美波)に待望の第一子・園子が誕生。その前段で、長屋の隣人でシングル・ファザー家庭の娘、小春(山本花帆)の寂しさも描かれた。彼女を励ます寿恵子の言葉、そして万太郎が旅先から送った「子の名前をひとつずつ書いた手紙」を通じて、「すべての命は祝福されてこの世に生まれるのだ」と、物語は説いた。
『らんまん』が打ち出した新たな基準
万太郎と周囲の人物たちが織りなす「人生絵巻」が、植物、ひいては自然界そのものの理(ことわり)とシンクロする構成に、毎回唸らされる。
筆者のような長年の朝ドラファンにはうれしい「豊かな作劇」がまず根底にあり、さらに、本作から朝ドラを観はじめた視聴者、それから、小さな子どもたちにとっては「わかりやすい」。奥深いのに、とっつきやすい。基本をしっかり押さえつつも、革新的。『らんまん』は、どんな視聴者も楽しめる“ユニバーサル朝ドラ”の新たな基準を打ち出したと言ってもいいかもしれない。
さて、果たしてこの“ユニバーサル朝ドラ”はいかにして生まれたのか。制作統括の松川博敬氏に話を聞くと、作り手の側からしても、この盛り上がりは「予想以上」だという。