「お子さんの写真は見ましたか?」「まだです」
実は、熊井は約1ヵ月前に出産している。被告人質問は次のように続く。
弁護人「お子さんには会いましたか」
藤田「まだ、会っていないです」
弁護人「いま、熊井さんがどうやってお子さんを育てているか、その状況は把握していますか」
藤田「接見禁止がついている状態なので、まだそういった情報はいただいていません」
弁護人「お子さんの写真は見ましたか?」
藤田「まだです」
弁護人「お子さんの名前は知っていますか?」
藤田「名前もまだわからないです」
弁護人「熊井さんとお子さんのこと、今後どうしていきたいという展望はありますか?」
藤田「できれば自分たちの手で育てていきたいなとは思っています」
被害総額60億円に上るとされる一連の“ルフィグループ”による事件。異国の地で“同志”として知り合い、愛を育んだ2人は今、何を思うのか。法廷で明かされたのは、彼らを結びつけた数奇な縁だった。
「高額バイト募集」から悪夢が始まった
藤田が事件に関わるきっかけとなったのは「高額バイト募集」と書かれたツイッターの投稿だった。当時、藤田は働いていたアパレル会社を退社。「手っ取り早くお金を稼ぎたい」という思いが頭をもたげ、ダイレクトメッセージを送ったのが事の発端だった。すぐにメッセージが届き、担当者と電話で会話をする。
「日本でエルメスなどのブランド品を100万円分買ってもらって海外の富裕層に転売する仕事です。報酬は40万、50万だと思ってください」
担当者の口調は柔和だった。買い付けの資金は渡されず、藤田は消費者金融を回り、100万円を工面した。19年5月30日、言われた通りにフィリピンに飛び立つ。空港近くのロータリーで待ち構えていたのは、複数の男たちだ。手首まで刺青を入れた恰幅の良いオールバックの男は、後に渡辺と共に逮捕された「今井」こと小島智信容疑者(45)だった。
男たちは藤田を睨め上げると、こう言い放つ。
「まずは荷物を預かるから。パスポート、銀行通帳、携帯もこっちに寄越して」
日本で買い付けたブランド品だけでなく、命綱となる私物を没収されたのだ。悪夢のような3年半の幕開けだった。
公判で藤田は次のように語り、悔しさを滲ませた。
「結局、その組織の幹部たちが使いたいブランド品だったというだけでした」