女性向けAVは、セックスする男性の表情や身体を女性の視点でエロティックに撮る。そこには、男性向けAVとは全く異なる性の地平が広がっているかのようだ。
では、女性向けAVを見れば「女性が本当に求めているセックス」がどういうものかわかるのだろうか。東大で女性向けAVを研究する服部恵典氏に話を聞いた。(全4回の3回目/続きを読む)
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ドラマ物の大ブームを起こした「3日間」シリーズ
──女性向けAVは、物語性や関係性が大事なんですね。
服部 最近は男性向けAVもドラマ性の強い作品が増えつつありますが、やはり女性向けの方が物語を大事にする傾向はありますね。
──ドラマAVが増えてきたのは、いつ頃から?
服部 AVの黎明期から、男性向けの中にもドラマ的なものは少なくありませんでした。ただ、近年起きたブームの先駆けは、2018年に朝霧浄監督が撮った「3日間」シリーズでしょうか。
──「3日間」シリーズ。
服部 彼女が家族旅行で家を3日間空けている間に、自分は彼女の友達と……という展開の、男性向けAV作品です。朝霧さんは映画監督志望だった方で、画面のつくり方といいライティングといい、とても美しい。単にドラマ部分が長いのではなく、セックスシーンにまでドラマを感じます。他メーカーも後追いするほど人気が出ました。
最近はYONAKA(よなか)という、「夜」をテーマにドラマAVを撮るメーカーも出てきました。セックスシーンを引き立てるためにも、脚本や画作りに力を入れている作品が、男性向けAVにも増えている印象です。
──脚本はわかりやすいのですが、映像にはどんな特徴があるのでしょう。
服部 映像的には、インパクトが「弱い」のが特徴です。これまでのAVは、局部や女性の表情をアップではっきり映したり、演出が少ないドキュメンタリータッチで独自のインパクトを出すものが多数派でした。
ところがYONAKAの作品は、身体がほとんど見えない暗闇の中で、男女が絡むシーンがあるんですよ。わずかな光を頼りにした演出がさながら映画のようで、AVの常識に逆行しているからインパクトがあるわけです。そういうAVが、男性向けでも増えてきていますね。