AV(アダルトビデオ)といえば、「男のためのもの」と思う人がほとんどだろう。ところが、AV界には「女性向け」の作品群も存在し、そこでは容姿端麗な男優たちがエロティックな身体を披露しつつ、情交を繰り広げている。さらに、彼らを支える熱心な女性ファン層も存在するというのだ。
女性向けAVは、普通のAVと何が違うのか。カメラは男優をどのように映すのか。そして、「エロメン」といわれる、専属男優たちの魅力とは……。女性向けAVの研究で東京大学大学院博士課程を修了した、男性研究者に聞いた。(全4回の1回目/続きを読む)
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服部恵典 女性向けAV研究者
1993年北海道生まれ。2012年東京大学文科三類入学。社会学専修に進み女性向けAVの研究を始める。2016年東京大学大学院人文社会系研究科修士課程に進み、2023年同博士課程修了(社会学)。博士論文は『「女性向け」アダルトビデオの社会学的研究──性的主体化と抵抗可能性』。現在、東京大学高大接続研究開発センター特任研究員、神奈川大学人間科学部非常勤助手
女性向けAVの最大の特徴は「視線の向き」
──「女性向けAV(アダルトビデオ)」とは、どういうものを指すのでしょうか?
服部 いわゆる「普通のAV」は、《異性愛者の男性視聴者》を想定してつくられていますよね。
ところが15年ほど前から、《異性愛者の女性視聴者》へ向けて撮りおろされた作品も、継続的に発売されるようになりました。制作しているのは女性向け専門のメーカーで、女性監督という場合が多いですが、男性向けAVメーカーが発売することもあれば、男性監督が撮ることもあります。
──では、女性向けAVが男性向けAVと違うのは、どんなところですか。
服部 僕が最も違うと思うのは、視線の向きです。
「男性をエロく撮る」という大発明
──視線、というのは?
服部 一言でいうと、女性向けAVでは「男性をエロく撮る」のが大事です。
男性向けAVは《男性が見たいもの》を撮るので、カメラの先にいるのはほぼ女性です。特にセックスシーンでは「男性の視点から女性を見る」。つまり男性はカメラとほぼ同じ位置にいて、画面には女性が映ることが多いですよね。
ところが女性向けAVでは、これが逆転します。女性視点のときは、ちゃんと男性が映るんです。
──女性向けAVでは、女性が手前にいるときは、男性が奥にいる。
服部 当たり前だと思うでしょう。でもAVにとっては、ひとつの発明だったと思います。
実は男性向けAVにも、女性視点の映像はないわけではないんです。しかし、そのカメラには女性しか映らない。女性同士だったり、女性の自撮りだったりします。「女性視点のときに男性が映る」というのは、男性向けAVではあり得なかった発想なんです。