日本の知の最高峰・東京大学。そこで大学院修士、さらに博士課程を修了といえば、紛うことなきトップエリートである。服部恵典氏(30)はその1人だ。

 ところが、服部氏の研究テーマは一貫して「女性向けAV」だという。彼は東大に入ってまで、なぜAV研究の道を選んだのだろうか。インタビュー最終回は、東大院卒研究者の道程を探る。(全4回の4回目/最初から読む)

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服部恵典氏 Ⓒ今井知佑/文藝春秋

──社会学の研究分野が多様にある中で、服部さんが「女性向けAV」を選んだのはなぜですか。

服部 僕は北海道出身で、2012年に東大の文科三類に入ったんですが、そのときは何をやりたいというのはなかったんです。

 で、東大には『逆評定』という学生が授業を独自評価した履修案内があって、「この授業は楽に単位がとれる」「この教授は厳しいから鬼」などの情報が載ってるんですよ。そこに、瀬地山角(せちやま・かく)先生のジェンダー論の授業は、「オナニーの話だけで1コマ終わる日がある」と書いてあって。

瀬地山角教授 ©文藝春秋

──それは目を引きます。

服部 どんなものだろうと授業に出てみたら、ちょうどそのオナニー回で。これがまぁ、面白かったんですよ。

 たとえば「100年前はオナニーを1日に3回したら死ぬといわれていた」「オナニーしすぎると目が潰れる、というのが科学的常識だった」などの話があって。時代によって性の常識がいとも簡単に変わるのが、すごく面白かった。さらに次の授業が、ポルノグラフィについての回だったんです。

「童貞や人妻も、学問として研究できるのか!」

──なかなか濃厚ですね。

服部 女性とポルノグラフィの関係についての講義で、そこで女性向けのポルノコミックがあることを知りました。「こういう研究もできるんだ」と。

 自分自身を思い返しても、エロに対する興味関心は小さい頃からずっとあったんです。中でも高校生のときに見たテレビ東京の『ジョージ・ポットマンの平成史』という番組が大好きで。「童貞はいつから恥ずかしいものになったのか」「人妻はなぜ魅力的なのか」といったテーマを、架空の教授がEテレ風に分析していくんです。

 そこで、「俺が好きだったああいうテーマは、社会学やジェンダー論として研究できるのかも」と気づきました。