──今さらですが、服部さんは異性愛者ですよね。だとすると、男性向けAVを研究するのが自然な気もしますが。
服部 むしろヘテロ男性だからこそそう感じたと思うのですが、僕にとって最も身近で最も謎に包まれているのが「女性の性」だという気持ちが、知的好奇心の出発点でした。
──女性の性が謎だ、と。
服部 はい。これは、僕が自分の胸に問いかけているだけではわからない。
でも大事なのはここからです。謎だ、知りたいと思うのと同時に「たかが性」「たかが女性」だとも思うんです。なぜ、性は人間の奥底にあるとされているのか。なぜ、異性というだけで分かり合えないかのように思われているのか。女性の性が人を惹きつける謎になっていることこそ、謎なんです。
――たしかに。
服部 しかも、女性の性が本当に隠されて秘密にされているかというと、実はちょっと違う。比喩的にいえば、大事に守られてはいるが、そのガラスケースは手垢でべたべたなんです。なので僕の仕事は、女性の性の鑑定ではなく、その指紋の鑑定。ただ、その中にかつての自分の指紋も見つけてしまうわけです。
──なるほど。
服部 女性向けAVを研究するようになって約8年の間ずっと理由を聞かれ続けて、こういう答えでいいかなというものを最近やっと用意できるようになりました。
「今まで見てきたAVと全然違う、これは何なんだ?」
──では、最近までは自分でも動機がわからないまま、理屈抜きで研究していたということですか?
服部 そうですね。「なぜ皆さんは女性向けAVを研究しないんですか?」と、逆に聞きたいぐらいで(笑)。
──それほど最初に見た2本が衝撃的でしたか。
服部 『Filled with you 一徹』は面白かったです。女性主観で一徹さんとデートして、セックスするシーンがあるんですよ。
それを見たときに「自分が今まで見てきたAVにも映画にも、こんな映像はなかった!」という感覚がありました。視界それ自体が、とてもジェンダー化されたものなんだと気づいたんです。