「僕自身は、女性向けAVのファンではない」
──ずっと真面目な顔でお話しいただいていますが、服部さんは女性向けAVを見て、ご自身が興奮することはありますか。
服部 ほとんどないですね。もちろん、その理由の大半は、僕がヘテロ男性だし、自分の性的な嗜好とそぐわないからだと思います。
ただ、インタビューした女性ファンの方々も、必ずしも性的興奮のために見ているわけではありません。少なくとも、男性向けAVが与えるような興奮とは少し違う。「AV」とか「性的興奮」というものの定義を、広げて考える必要があると思います。
──女性向けAVを見ても自分の性欲は喚起されないけれど、面白いと。
服部 女性向けAVを「研究すること」が面白い、という感覚ですね。僕自身は、女性向けAVのファンではないです。エロい作品というより、斬新な作品に出会ったときのほうが興奮します。
──「東大卒の女性向けAV研究者」というと、世間的にはかなり珍しく、色眼鏡で見る人もいるかと思います。そんな中で、服部さんの研究心を支えるものは何でしょうか。
服部 「女性向けAV」はマニアックな対象だと思われがちですが、フェミニズムにとっては、ポルノグラフィはとても重要な論点です。メディア研究にとっても、ポルノほど、作り手のメッセージと視聴者の解釈が問題化されるコンテンツはない。だから僕としては、王道な研究をやっているつもりなんですよ。
あと、研究者はみんなそうだと思いますが、自分が本当に読みたい論文はこの世にまだないんです。
──女性向けAVについて、納得できる文献は見当たらないですか。
服部 ええ。そもそも、AVについての学術研究自体が少ないんですよ。アダルト動画サイトの閲覧数は、Netflixの閲覧数をはるかに上回っていて、ものすごい影響力を持っている。しかし研究数としては、映画の何十分の一ぐらい少ない。中でも女性向けAVの研究者は世界でもわずかです。
だから、「読みたいものは自分で書くしかない」という気持ちはありますね。その意味では、第一人者になれる研究を見つけられてよかったと思っています。