「イクときに絶叫なんてしない。あれって偽物でしょう?」
──男性向けAVで気になるのは、女性のオーガズムを重視していることです、女性向けAVでは、女性のオーガズムはどのように扱われているのでしょうか。
服部 女性向けAVでは、基本的に激しい演出はありません。たぶん、男性向けAVと女性向けAVでは、リアリティに関して考え方が違うと思うんですよ。
──リアルなオーガズム?
服部 「美味しさ」が画面に映らないように、「気持ちよさ」も映りません。なのでグルメ番組が「美味しそう」を演出するように、AVは「気持ちよさそう」を演出したい。そこで男性向けAVは、あえぎ声やいわゆる「潮」の演出などで、オーガズムを盛りがちです。
ところが、女性からすると「あれってニセモノでしょ?」と。女性向けでも女性が気持ちよくなる描写は大切なのですが、「イクときに絶叫なんてしない。普通はこんな感じでしょう?」という演出になっています。「『AVっぽくないから本当に気持ちいいはずだ』という演出のAV」なわけです。
──逆に、ということですね。女性向けAVでは、オーガズムに達しないことも多いんですか?
服部 達したかどうかを明示しない、という感じですね。男性向けAVのように、女性が「イク」などと言葉にすることは少なくて、ちょっと痙攣するとか、表情の変化などで表現するパターンが多いです。
──男性がフィニッシュしないこともある?
服部 それはないですね。演出かどうかはさておき、女性向けAVでも男性の射精がないとセックスは終わりません。
──それもまた「女性が求めるセックス」の形ということなんですね。
服部 そこが難しいところで、女性向けAVが「女性が求めるセックス」を表現しているわけではないと思うんです。
――どういうことでしょう?
服部 僕としては「女性向けAVの研究をしたからって、『女性』が求めるセックスなんてわかるか」という気持ちが強いんです。
そもそも「男性」が求めるセックスだって無限にあるわけでしょう。僕は「女性向けAV」の傾向は分析していますが、どれだけ見ても「女性の性欲」の傾向を分析できるとは思っていません。
──たしかに、すごく個人差があるものですよね。
服部 SILK LABOプロデューサーの牧野江里さんも「SILK LABOはすべての女性に向けてはつくっていない」と語っていたことがあります。女性みんながこういうAVが好きだとは思っていない、と。
──それは意外です。
服部 牧野さん自身も、自分が好きなのは「無理やり」なやつだと著書に書かれています。実際、痴漢ものやレイプものはレディースコミック時代から「女性」に人気のあるジャンル。しかし、SILK LABOにはかなり少ないわけです。つまりSILK LABOは、“AVに興味はあるけど、男性向けには手が出ない初心者”向け。ターゲットは女性の中でもごく一部と牧野さんは話していました。
──そうなのですね。自分が見たいAVをつくっているのかと思っていました。
服部 女性のための新しいAVをつくろうとしたときに、女性スタッフで集まって、既存のAVの批判を言い合ったそうです。「AV会社の女性」の常識だけで考えないように、一般女性にリサーチした結果を元に、SILK LABOの方向性が決まっていきました。
こうして、SILK LABO第1作は1万枚を超える大ヒットになったわけですが、でも「1万枚」なわけです。大手アダルトサイトFANZAは、8000万人のユーザーのうち30%が女性ですが(FANZA REPORT 2018より)、FANZAで「女性向け」タグがついた動画は0.3%しかありません。女性向けAVはすべての女性の欲望を受け止めているわけでもないし、受け止めようともしていません。