――あ、生きてるんだ。
目を覚ましてまず、そう思った。
私は集中治療室のベッドに横たわっていた。身体からは何本もチューブが伸びていて、骨を切った上顎の部分は特殊な器具でガチガチに固定されている。知らない人からしたら、事故に遭って大手術をした患者さんみたいに見えることだろう。まあ、ある意味それも間違ってはいない。
生きていたら生きていたで、案外私は明るい気持ちだった。とりあえず手術は成功したみたいだし、それに加えて入院中の1カ月間、顎が一切動かせない。ということは、この期間で強制的に過食嘔吐が治るのではないか、と思ったのだ。
だけど我慢できたのは、最初の1週間だけだった。結局衝動が抑えきれなくなって、毎日出される液状の離乳食で試してみたら、吐くことができてしまった。
顔全体が骨折してるみたいな状態だから、もちろん吐くときには激痛が走る。それでもやめることはできなかった。それまで食べていた固形物ほどの快感はないにせよ、液体を吐くだけでもある程度気持ちは落ち着いた。
32キロの私
この入院中の期間が、私の人生のなかで一番痩せている時期だった。体重は、なんと32キロ。無理なダイエットをしていた中学のときよりもさらに軽かった。BMIは約12しかなく、「痩せすぎて危険」とされる数値を大きく下回っていた。
脳みそが小っちゃくなって、爪は全部はがれて、髪もバサバサで、身体からはなぜかバナナのような甘い匂いがして。過食嘔吐が末期の人はみんなそうなるんだけど、この時の私はまさにそんな感じだった。
そうこうしているとあっという間に1カ月は過ぎて、退院の日を迎えた。
ガリガリで生気のないまま、私は迎えに来てくれたリョウさんと一緒に家に帰った。