両思いなのに「両片思い」? 『何食べ』の2人の関係
岡村 そういう意味でいえば、『きのう何食べた?』も家族の話ですよね。料理好きのシロさんと天真爛漫なケンジを中心に、彼らの親がゲイの息子とどう向き合うのか、社会は彼らをどう受け入るのか、彼らは社会とどう折り合うのか、2人がどんな家庭を築くのか。
そして、面白いと思うのは、二人の関係にどこか緊張感があることで。ちょこちょこ出てくるじゃないですか。知り合う以前はお互いにいろんな色恋を経験していたとか。だから、ちょっと間違えれば浮気してしまうのかも、壊れてしまうのかも、そんな一抹の不安もどこか匂わせていて。
よしなが そうなんです。ちょっと緊張感があるんです、ずっと。何年一緒に暮らしていても。
岡村 その関係性が、高橋留美子さんの『めぞん一刻』の五代と響子さんを彷彿するものがあって。読んでました?
よしなが もちろん。大好きです。自分が年を取ったら、「一刻館」のようなアパートで、プライバシーは確保されているけどちょっと穴が開いているから、死んだら誰かが見つけてくれるような感じで、響子さんのような管理人さんがちゃんと居てくれて……みたいなところで暮らしたいなって(笑)。
岡村 『きのう何食べた?』の2人はもっと繊細ですが、「浮気してるんじゃないの?」って怒ったりする感じが響子さんっぽいなって。響子さん、いつも怒ってるじゃないですか。嫉妬したり。
よしなが 確かに。今、言われて思い出しました。そうでしたね。本当は両想いなのに、いつもすれ違っていて両片想い、みたいな。
岡村 シロさんとケンジもそう。お互いに想い合っているはずなのに、という。でも、そこがキュンキュンしていいんですよね。
よしなが 本当ですか! ありがとうございます。カップルになってからのキュンは結構難しいんですが、どこかずっと緊張感があるし、2人の「好き」の感じがちょっと違う、というのもあって。
岡村 シロさんには、ケンジは本当は好みじゃないけど……という気持ちがあったりするけど、ケンジは、シロさんは『シティーハンター』の冴羽獠にそっくりだと思ってて(笑)。ベタ惚れですよね。
よしなが わかりやすくずっと恋してる感じなんです。
岡村 しかし、連載が始まって16年。彼らを取り巻く社会もすごく変わりましたよね。
よしなが 激変しました。だって、最初はLGBTQという言葉がなかったし、同性婚が議論の俎上に上ることも想定できなかった。
※社会の変化が『何食べ』に与えた影響や、連載を進める中で浮かび上がってきた『大奥』と『何食べ』の共通点など、多岐にわたって語った全文は、『週刊文春WOMAN2023秋号』でお読みいただけます。
text:Izumi Karashima hair & make-up:Harumi Masuda(Okamura)
【週刊文春WOMAN 目次】特集 推し活のない人生なんて/香取慎吾「推される人生」を生きる/松本隆の華流ドラマ論/岡村靖幸×よしながふみ/グライムスが明かすイーロン・マスク
2023秋号
2023年9月21日 発売
定価660円(税込)