多くの日本人が気づかないなかで、日本を取り巻く「経済」と「安全保障」をめぐる地政学的状況が激変している。「脱炭素」を進めようとすればするほど「中国依存」が進んでしまうという困難な課題に直面しているのだ。どの西側先進国も同じ課題に直面しているが、欧州は先頭を走り、米国もそれに続き、日本だけが大幅に出遅れている。
そう警鐘を鳴らすのは、「文藝春秋」2023年11月号(10月10日発売)に「グリーン経済安保を脱中国依存で進めよ」を寄稿した前国家安全保障局長の北村滋氏だ。
ウクライナ侵略の2週間後、EU首脳らは「ベルサイユ宣言」を発出
事態が大きく変わったのは、ロシアによるウクライナ侵攻がきっかけだ。
北村氏は次のように指摘する。
〈EUは経済安保政策に関する限り、日米に比べて動きが鈍かった。中国との地理的距離もあり、長年にわたり中国を地政学的リスクと見るよりも、むしろビジネスチャンス豊かな成長市場として捉えてきたからだ。しかしながら、ロシア・ウクライナ戦争がその様相を一変させた〉
〈2022年3月、ロシアによるウクライナ侵略の2週間後、EU首脳らはフランス・ベルサイユで非公式会合を開き、「ベルサイユ宣言」を発出した。(1)防衛能力の強化、(2)エネルギーの対ロシア依存の低減、(3)より強靭な経済基盤の構築を三本柱とするもので、これがEU経済安保政策の出発点となった〉
「脱ロシア依存」が「中国依存」を深める
しかし、ここで欧州は困難に直面する。ウクライナ戦争をきっかけに「ロシアからのエネルギー自立」=「脱炭素化」を迫られたのだが、その「脱炭素化」はそのまま「中国依存」に直結するからだ。
〈EUはEVのバッテリーの4分の1、太陽光発電モジュールと燃料電池のほぼすべてを中国に依存している。太陽光発電技術とその部品については、その依存度は9割を超えるという。