ベイスターズで探し続けた“ベテラン”の存在
2018年にベイスターズに入社して一番初めに気になったのは、このチームには“ベテラン”がいないこと。ただ年齢が上という意味のベテランではなく、チームを俯瞰して見られていろんな面から支える役割ができる“ベテラン”。
他のチームなら年齢的にまだまだ若手の筒香嘉智選手が必死にチームを背負い、外国人選手のロペス選手がそのフォローをしていた。宮﨑敏郎選手は我が道を行き、梶谷隆幸選手はベテランと呼ばれることを嫌った。
「若くて勢いがあるチーム」は、勢いを失ったときに迷いやすい。そんなときに心強いのがチームが向かうべき方向を、姿勢や言動で示してくれる“ベテラン”の存在だ。データや数字には表れない“ベテラン”の存在の大きさを、ライオンズでたくさん見てきた。
試合前の打撃練習で気持ち良くホームラン性の当たりを飛ばす選手が多い中、前述した『BLUE PRINT』での取材中、練習前に一人室内練習場でバッティング練習を行っていた大和選手が、試合の場面を想定しながらバント・バスター・バッティングで全ての球を右方向に打っていたのを発見したとき、“チームが得点するために何をすべきか”を考えている、こういう人が“ベテラン”という存在になってくれるといいなと思った。
大和選手の言動に垣間見えた“ベテラン”の兆し
そんな思いを知ってか知らずか(絶対に「知らず」なんですが)大和選手は年を追うごとに“ベテランらしさ”が出てきた。
バッティングで悩む牧秀悟選手に一言「変えんなよ」とアドバイスしたエピソードも、渡辺直人選手が進塁打を打とうとして凡退した山川穂高選手に「そういうのは俺らがやるから」と諭したエピソードに似ている。たとえ打撃スタイルが違っていても、ベテランの言葉は伸び盛りの若手の迷いに寄り添い、背中を押すことができる。それはたぶん一緒に戦う選手同士だからこそ共有できる、打撃コーチにはできない役割なのだ。
牧秀悟選手はそのシーズンのオフから大和選手と自主トレを共にしている。毎年一人で行っていた自主トレが、何かを吸収したいという後輩と一緒にやることで刺激となる。“聞かれること”が増えれば、相手を見ておく必要も出てくる。そうすると、もっともっと言葉に重みが出てくる。
いいベテランに、いい後輩がついた。いい後輩がついて、いいベテランになってきた。
こんなにもあった“ベテラン”の共通点
後輩が聞いてきたタイミングでグサッと刺さるアドバイスを送るのが大和選手で、気になったタイミングで自らアドバイスを送るのが渡辺直人選手。
プレースタイルやキャラクターはそこまで似ている感じはしないが、似ているところと言えば、若手の頃にめちゃくちゃ練習してきた土台があること、グラブのメーカーが同じこと(ちなみにこだわりの型は全く違う)、相手チームから嫌がられる選手であること、チームや後輩から絶大な信頼を寄せられていること、よく笑うこと、いい匂いがすること。前回のほしさんのコラムで書かれてあった『お師匠』という呼び名も、渡辺直人選手がライオンズ時代いとも簡単にセンター前ヒットを打つことからコーチ陣に『センター前の師範代』と呼ばれていたこととも少しリンクする。(※「師範代」の正確な意味は「師範」の「代役」だが、このときは「師匠」という意味で使われていた)
だから“代打の鬼”と呼ばれ始めた大和選手に一つだけ聞いてみたかったことがある。
「ファーストストライクはどう打つイメージで打席に入る?」
バットコントロールが上手い両者だが、両者とも早いカウントで決着するときは狙い澄ましたレフト方向、粘ったらセンター前。そんな場面をよく見ていた。
だったら一番フリーな状況なら何をどこに狙っているのか。
6年ほど前に渡辺直人選手に聞いたときは「レフトに強く弾き返す」だった。
冒頭のクライマックスシリーズの試合前、素振りをする大和選手に聞いてみた。
「方向は特に決めてないですけど、ファーストストライクを振れるときは調子が良いときですね」
……ここまで似たところがたくさんあったのにそこは違うのか、とちょっと肩透かしを食ったが、それでもこれだけ共通点があれば、そろそろ言っても良いだろう。
2022年から2年間在籍した藤田一也選手が引退し、来シーズンから再び内野手最年長となる。
大和さん、ベイスターズの頼れる“ベテラン”枠を任せてもいいですか?
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