クライマックスシリーズ1stステージ、2連敗でベイスターズの2023シーズンは幕を閉じた。敗退が決まった10月15日の2戦目、私も広島へ観戦に向かっていた。

 久しぶりのマツダスタジアム、入場してスタンドの階段を下っていくとすぐに素振りをしていた大和選手と目が合った。

「めっちゃ久しぶりですね。わざわざ観にきたんですか?」

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大和 ©時事通信社

『最低限をやる』当たり前だけど難しいこと

 大和選手がFAで阪神タイガースから移籍したのと同じタイミングで、私も埼玉西武ライオンズから横浜DeNAベイスターズに“移籍”した。当時私が所属していたのはクリエイティブで新しい映像やものを生み出していた部署で、「野球の本質的な面白さを加えてほしい」と選手周りの取材や撮影、SNS等の発信に携わっていた。

 それまでの阪神・大和選手の印象と言えば「守備が上手い」のは誰もが認めるところとして、「笑わないし、なんだか怖そう」という感じ。

 一番最初に大和選手を取材したのはもう5年前になる2018年の観戦ガイド『BLUE PRINT』。守備が上手い人はどこを切り取っても上手く見える、という理由でやっぱり表紙は守備中の写真にした。

 ただ、取材のために一日大和選手を観察していると、「なんだか怖そう」な印象を一瞬で覆す穏やかでよく笑う人柄と、そのバッティングに対しての意識の高さを発見することになった。

 誌面でも語っていたが、大和選手は暇さえあればバットを振っている。スタジアムに来てから全体練習が始まる前に室内練習場で気が済むまでバッティングをし、試合が終わっても練習、家に帰っても素振り。

「職業病ですね」と本人は笑って話していたが、

「試合でできなければ練習するしかない。練習してるからって試合でできる保証はないけど『最低限できることはあるやろ』って考えている」という言葉にグッときた。

 以前所属していたライオンズでもこの『最低限をやる』という言葉を聞いたことがあるからだ。

苦しむライオンズを導いてくれた“ベテラン”の話

 ペナントレース終盤、下位に低迷していた2016年のライオンズ。私は苦しむチームの中で“戦う姿勢を変えない選手”を意図的に球団月刊誌『LIONS MAGAZINE』のインタビューに起用していた。

 チームが低迷し上手くいかないときに、秋山翔吾選手(現広島東洋カープ)が口にした「体力的にしんどいとき、確実にアウトのときでも栗山(巧)さんや(渡辺)直人さんが一塁まで駆け抜けることやフライを上げたときでも全力疾走することは、全員が真似をしないといけない姿を見せてくれている」という言葉。

 その言葉を証明するかのように『最低限をやる』を教えてくれたのが渡辺直人選手(現東北楽天ゴールデンイーグルス・コーチ)だ。

「チームが苦しいからこそ、ただ漠然と野球をやらないように。個人成績よりも、まずチームが得点するために、その確率を上げるために何をすべきかを一番に考えなきゃいけない。最低限の仕事をみんながクリアしていけば最低限のチームの流れになる。それはプレーに関わることから対自分のことも含めて全てにおいて言えること。凡打したこと自体は悪いけど、それでも、最低限できることはあるということを常に考えている」(『LIONS MAGAZINE』より)

 ベイスターズからライオンズに移籍してきた渡辺直人選手は首脳陣や選手たちから絶大な信頼を得て、“ベテラン”としてチームに欠かせない存在となった。