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――「ジャニー喜多川氏も、戦争の影響でおかしくなったとしたら気の毒だ」といった庇うような考え方もあるみたいですが。

益田 でもそこまで遡ると、犯罪を犯した人は全て「過去に何かあった」となりますよね。だって犯罪を犯した人のほとんどは家庭環境とか貧困の問題とか、絶対に何かしら抱えてるわけですから。何もかも恵まれていてわがままなだけで犯罪を犯した、という人は「自己愛性パーソナリティー障害」といったケースもありますが、とにかくごくまれです。

――加害者側もケアすべきという声も耳にしますが、どう考えればいいでしょうか。

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益田 考え方としてはケアすべきだけど、そこまで徹底して求めようとすると人間の能力を超えてしまうので、難しいと思いますね。ただ、単純に考えずに、「清濁併せ呑む」というか、そういう「含み」というものを理解したうえで、何かしらの行動や判断をすべきでしょうね。

初診では「家系図」を書き「自分史」を話してもらう

――本の内容に戻るんですが、初診で先生がまず、どの来院者にも「家系図」を書いてもらったり「自分史」を聞いたりするというのが意外でした。精神科の初診でそこまで遡って背景を聞く、という方法が、今では一般的なんですか?

『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科に行ってみた! 』より ©️青山ゆずこ/扶桑社

益田 確かに80年代や90年代は違っていました。そのころは統合失調症などが精神医療のメインの治療だったんです。

 それがだんだんと、精神医療も駅前クリニックみたいなものが一般化してきて、いわゆる日常のストレスから心を病む人というところにまで診療の範囲が広がってきました。そういう状況では、単純に「遺伝的に恵まれない人に薬を出す」とか「福祉を導入する」という治療や対応では済まなくなってきていて、やっぱり個々の社会背景を理解した上で説明や診断をする必要があります。

 それと、昔と違って世の中から「お節介な人」が減ったんですよね。だから若者が、例えば「社会にはこういう汚い面があるよ」なんてことを大人の口から教えてもらえなくなってしまった。だから僕は診察室ではそこを補う意味で「◯◯業界はブラックだよ」とか、偏見にまみれたような赤裸々なことを、若い人に言うこともあります。「キツイんだったらもっとホワイトな業界に行けばいいじゃない」と。

 それは本来、親とか先生が言うことだったんだけれど、今の大人はそういうことをあまり言わない。お節介だと言われてしまうから「本人の自由」というきれいな言葉でごまかして「やりたいことをやればいいじゃない」なんてことを言う。今の大人の言っていることは、物分かりが良すぎるんです。

――そんな役割も精神科の医師に求められているんですか。時代で社会も人も変わって、精神科に求められるものも、同時にアップデートされているんですね。

益田 これからも、時代が変われば精神科も変わっていくでしょうね。