YouTuberとしても知られる早稲田メンタルクリニック院長の精神科医・益田裕介先生。自院の患者向け資料として始めたYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」は、一般の視聴者からも支持されており、毎日更新。現在、動画本数は1600本以上、登録者数は48万人を超えている。

「精神科医がこころの病気を解説するCh」には、報道された事件をいち早く取り上げて益田先生が精神科医の目線で事件を解説するシリーズもあり、人気を集めている。今回のインタビューで、文春オンラインに掲載されてきた数々の事件についてもお話をうかがった。(全3回の3回目/最初から読む

益田裕介先生

境界知能や発達障害の人に必要なのは、自己責任論ではない

――IQが平均より低いけれど知的障害と診断されていない「境界知能」の女性が犯した事件がありました。人知れず出産しその赤ちゃんを殺害・遺棄してしまうのですが、出産から遺棄するまでの間に、カフェで撮った「自分へのごほうび」写真をInstagramにアップしたり、赤ちゃんを埋めた後に平然と面接試験を受けていたりと行動が尋常ではなく、公判前の検査で彼女の境界知能が発覚しました。

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益田 まず「境界知能」といわれている状態の人たちが世の中にはたくさんいる、ということを誰もが知るべきです。そして何か起きたときに、境界知能や発達障害の人に自己責任論を押し付けるのではなく、生活保護を取りやすくすることを考えるとか、福祉につなげる発想が必要だと思います。

――境界知能は、日本人の7人に1人ということですから、結構な人数ですよね。

益田 それだけ人間にはバリエーションがあるということです。

――軽度の障害だと「知られたくない」と隠したがる若い人も多そうですが。

益田 思春期や若いうちだと「知られたくない」という思いが強いのでしょう。だけど30代、40代となってくるとそれが変わってきて、若い頃のような競争心が徐々に減り「助けてほしい」と声を上げられるようになったりするんです。すると今度はどうやって助けてもらえばいいのかがわからなくて困ってしまう。それも踏まえて、周りは対応していけばいいんじゃないんでしょうか。

 先ほどあげてもらった事件は若い人のようですが、例えば社会でよく問題になっているゴミ屋敷とか、犯罪を犯してしまう人は、生きることに行き詰まった30~40代が多いと思います。だから年齢により、ちょっと取るべき対応が違うんですよね。境界知能、知的障害や発達障害があっても一様に同じではなく、状況によって対応は変えたほうがいいと思うんです。