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引きこもりは子どもだけの問題なのか?

――引きこもりの子が患者だった場合、親が付き添います。親というのは強者の立場ですよね。

益田 逆の場合もあります。親の方がよっぽど発達障害が重い場合もありますし、思いやりだったはずがやりすぎて教育的虐待に転じたことに親が気づいていない場合もあります。親は親で間違った思い込みもあるので、冷静になってちょっと頭を柔らかくする必要があります。

 人間は魂(たましい)で動いてると思っている人が多いけれど、人間というのは脳で動いてるんです。だから脳が疲れたら変なこと考えるし、個性とか特性もあって脳の出来もいろいろある。自分で「こうしたい」と思っても自在には変えられない「脳の肉体的な限界」という要素もあるんです。それに気づいてもらって、その上で「子どもにどこまでやらせたらいいんだろう」と程よいところを探すべきです。

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 子どもにはひたすら自由にさせたらいい、というとスポイルになってしまうし、しつけすぎたら虐待になってしまうから、そのはざまのラインというのがすごく難しい。これをトライ&エラーしていかなくちゃいけない。でもそれができない親や子もいるんです。そういう場合はプロの意見を聞きながら調整していく必要があって、試行錯誤が必要なんです。

――例えば先生は「お母さんに問題ありますよ」などとズバッと言う訳ですか?

益田 タイミングによりますけど、結構ズバッと言います。僕も間違えることはあるので、うまくいかなかったり、やりすぎてしまったり、逆に気を使ってしまったがゆえに響かな過ぎるときもある。でも基本は、そこからいい方に転じます。

 引きこもりの子どもの治療をするとき、多くは親の治療も同時に必要になります。それが「家族療法」という方法なんです。親が過度に子どもを責めていて、だから結果的に子どもが引きこもっているという家族もいる。親がちょっと理解してくれるだけで、子どもの状態が大きく変わることもあります。

――親が成功者ゆえに引きこもりになる、こじらせる、ということもありそうですか。

益田 もちろん、親が強烈すぎると劣等感を抱くことはあるでしょうね。

――いくつかの事件の影響で世間に「引きこもりの人は怖い」みたいな風潮があるじゃないですか。「何するかわからない」という、偏見というか。

益田 引きこもりというのは治療の対象であり、福祉との連携が必要な状況です。誰とも交流しないことでノイローゼ気味だったりして、本人も苦しいはずですし。でもそんな人を周りが怖いと感じるのは仕方がない。

 じゃあ次に何をするかですよね。怖いからと放置していても何も問題は解決しない。例えば隣人であれば、情報提供ができるタイミングがあればできるだけして、福祉につなげる。心配しているというメッセージはあったほうがいいと思いますけど、伝えにくい世の中ですよね。「あなたのお子さん、引きこもりだから精神科に行ったほうがいいですよ」なんて突然言ったら驚かれてしまうから、タイミングややり方が重要です。