早稲田メンタルクリニック院長の精神科医・益田裕介先生は、YouTuberとしても知られている。自院の患者向け資料として始めたYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」は、一般の視聴者からも支持され、ほぼ毎日更新。現在、動画本数は1600本以上、登録者数は48万人を超えている。
この秋には、“心の治り方”について漫画で解説する著書『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科に行ってみた! 』(扶桑社コミックス)を上梓。「心を治す」とはどういうことなのか、また精神医療とはどんなものなのか、益田先生にお話をうかがった。(全3回の1回目/続きを読む)
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わかりやすく「心が治るメカニズム」を伝えたい
――この本は、一言でどんな本なのでしょうか?
益田 「心が治っていく」ということを具体的に書いた本です。今までの精神科の本はなんだかフンワリした内容で、具体的に「どの瞬間で治っていくのか」というところが、いまひとつわかりませんでした。
――体験談の章は特に、医師の言葉にショックを受ける瞬間や、少しずつ原因を受け入れられるようになっていく過程など、かなりリアルでした。
益田 そういう「心が治るメカニズム」を知ってほしいと思い、読みやすく漫画にしました。
――ご自身のYouTubeチャンネルでも動画を通して、さまざまな心のメカニズムを解説されていますね。
益田 心にある“不安”や“こだわり”。そういうものが「治る」とはどういうことなのか。これを伝えるというのは、結構難しいことなんです。
心の古傷も人生の味わいにできると理解できれば
益田 心の古傷というものは、例えば過去の失恋の痛みにも似ています。消えてなくなることはなく、思い出して掘り下げたら誰もが「嫌だな」と感じる。けれど、今現在、その失恋にひどく苦しめられているわけでも、日常がアンハッピーなわけでもないですよね。こういう感覚が、精神疾患に苦しむ人にはなかなかわからない。鬱が治る感覚というのが、想像しにくいんです。
新しい恋愛を始めた人は、過去の失恋の記憶をきれいさっぱり忘れてしまうのではなく「嫌な思い出だけど、これも人生の味わいだよね」と感じられるようになっていき、囚われなくなります。心が治るというのはこれと同じで「不安やこだわりに支配されなくなる」ということなんです。それをこの本では、わかりやすく解説しています。
世の中には不安やこだわりに支配されてしまう人が結構多い。だからこの本では「支配されないためには、こういうことを知る必要があるんだよ」とか「支配されないってこういうことだよね」と説明しています。
――不安に支配されやすいという人が病院やクリニックに足を運ばなくても、この本を読んで参考にできそうですね。
益田 そう思います。「不安がなくなる」という状態が、完璧な桃源郷みたいな世界にたどり着くことだと思っている人も、世の中には存在します。当たり前だけど、そうじゃない。だから僕らが考えている「平和」というか「不安がない状況」がどういうことなのか、その空気感を共有できれば、お互いにいろんな誤解も減るし、プラスになると思うんです。