仲間や他者の心の状態を知る手がかりにも
――現在不安を抱えていない人も、読むと何かためになりますか?
益田 例えば、鬱になった部下と面談をしなければいけない立場の人とか、自分の上司が親の介護か何かのせいで元気が無かったり怒りっぽかったりして困っているとか、あるいは同僚が突然会社に来なくなってしまって心配だとか。不安を抱えてる人ってけっこう身の周りにいますよね。そんなとき、心のメカニズムを知っていればとても役立つと思います。
――不安を抱えた人たちにどう接すればいいのかがわかるんですね。
益田 相手の心の状態を知るには、ちょっと先のテクニックが必要です。例えば、まだ鬱病の手前だけど、落ち込んでいるような状態の人がいたときに、鬱病の治療のテクニックを知っていれば、それを応用して対応できることがある。そういったテクニックを手軽に知ることができるという意味でも、この本は役立つと思います。
それから「即結果は出ない」ということも知ってもらえたらいいですね。僕らだって、たとえ1時間話し合っても、向こうが「よくなりました! 話を聞いてくれてありがとうございます」と、その場でスッキリして終わることなんてまずない。モヤモヤしながら3カ月、気がついたら半年と経ったときに、相手が少し良くなって感謝してくれたりする。そういう空気感というか、カルチャーを広く知ってもらえたら、社会にもいろいろ小さな変化が起きるんじゃないかと思うんですよ。
誰もが「グレー」を受け入れることが必要
――この本では、発達障害や境界知能についても解説されていますね。
益田 はい。しかし、そもそも障害でなくても、もともと人間の能力ってそれぞれ違うものですよね。なのに世の中、特に職場には「みんな自分と同じ能力を持っていて、頑張れば同じことができるはずだ!」と考えている人が大量にいます。
――「同じお給料をもらっているんだから」と。
益田 でもそんなことないんです。体力のある人とない人、集中力がある人とない人では差があるし、それは生まれつきのものであって、いかんともしがたい場合もある。ある程度「そもそも人間には差があるんだ」という事実を加味して行動した方がいいんです。
――益田先生はYouTube動画でも「白黒思考(物事を白か黒か二分して捉える思考)は良くない」とおっしゃってました。これは明確に「良くない」と言い切れることなのでしょうか?
益田 もちろんその通りで、誰もが「グレー」を受け入れることが必要です。世の中の問題というのは複雑なんです。単純じゃない問題に直面したとき、ジレンマが起こる。それは「複雑なまま」じゃないと解決できないことなんです。
だからジャニーズ問題もそうですよね。誰が被害者で誰が加害者か、というと割り切れないところもある。まあジャニー氏は究極的な加害者ですけれど、じゃあ例えば、東山さんのような力のある人は? そこは、白か黒か決めるべきことではないんです。もしかしたら「被害者でもあり加害者でもある」かもしれない。そこの塩梅を理解することが大事だと思います。