スペースXを成功させ、いまやNASAにかわり宇宙開発をリードするイーロン・マスク。宇宙開発を本格的に決意したのは、30歳のときだった。当初から掲げていた「人類は火星に移住すべき」との目標。これは本心なのか。20万部を突破した超話題の公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)から、火星を目指す驚きの理由を紹介する。
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クーデターに遭い、CEOを務めるペイパルから追放されてしまったマスク。
働くのが大好きで、休みが大嫌いなマスクだったが、初めてまとまった休暇を取ることになった。11年ぶりに南アフリカへ里帰り旅行したところ、なんとマラリアに罹って死にかけてしまう。マスクいわく、この辛い経験から以下の教訓を得たそうだ。
「休むと死ぬ」
冒険好きなマスクは、パイロット免許も取得した。そして、アクロバティックなタイプの軍用ジェットを購入する。戦闘機乗りの訓練に使われるものだ。教官とふたり、『トップガン』さながらの低高度飛行も試みた。おかげで、空体力学を体で理解するのに役立ったという。
マラリアによる長期療養から回復したマスクは、友だちにこう打ち明けた。
「宇宙でなにかしたいって、昔から思ってるんだよね」
だが、ロケットの建造には凄まじい金額が必要だ、個人にできることではない、と思っていた。しかし、本当にそうだろうか。最低限の物理要件は、金属と燃料ではないか。
500ドルを払うつもりが、間違えて5000ドルの小切手を
その夜、マスクはNASAのウェブサイトにアクセスする。するとNASAが火星探査を計画していないと分かり、ショックを受ける。
さらなる情報を求めてグーグル検索をしたところ、マーズソサエティ(火星協会)がシリコンバレーで晩餐会を開くとの記事を見つけた。面白そうだったので妻とふたりで参加しようとなる。しかし500ドルのチケット代を払うつもりが、1ケタ間違って5000ドルの小切手を送ってしまう。