だがそのおかげで、映画『エイリアン2』『ターミネーター』『タイタニック』のジェームス・キャメロン監督と同じテーブルに座ることができた。マスクの妻はこう証言する。
「キャメロン監督は、イーロンと火星の話ばかりしていました。ほかの惑星に入植しなければ人類の命運がつきるとかなんとか」
高遠なミッションを手に入れたマスクは、ロケット工学の本を読んだり、専門書やエンジンマニュアルなどを専門家から借りて勉強する。
「火星を開拓する。人類を複数惑星にまたがる文明にすることを人生の目標にしたんだ」
昔の仕事仲間にこう明かすマスク。だが、返ってきた反応はありがちなものだった。
「さすが。頭おかしいよ、お前」「それで事業になるのか」
「月までしか行けなかった、それ以上はあきらめたと子どもたちに言うのでしょうか」
しかし、事業ありきではなく、ミッションありきでスタートするのがマスクなのだ。
なにが彼をそこまで駆り立てるのか。30歳のアントレプレナーだった当時から現在に至るまで、マスクは3つの理由を挙げている。
ひとつには、技術の進歩が止まることを恐れたから。「月までしか行けなかった、それ以上はあきらめたと子どもたちに言うのでしょうか」「技術とは、少しでもよくしようとたくさんの人が必死に働いて初めて進化するものなのです」とマスクは説明する。
それから、小惑星の衝突や、核戦争によって地球に住めなくなったときに備えるため。ほかの惑星にも住むようになっていれば、人類の文明と意識は生き残れるからだ。
三番目の理由は、開拓者精神だ。かつて人々が米国への移住を目指したように、火星への入植を目指すのである。
「ほんとうに画期的な出来事など、これまでほんのいくつしかありません」と、マスクは言う。
「単細胞生物の誕生、多細胞生物の誕生、植物と動物の分岐、海から地上への進出、哺乳類の誕生、意識の誕生ぐらいでしょうか」
そのくらいのスケールで次のステップとなれば、これはもうひとつしかない。
「複数惑星に命を広げる、ですよ」