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同世代が若きA級棋士や新鋭を倒しているのを見ると…

 私の修業時代、ライバルは1歳下の関西棋士、畠山成幸八段や双子の弟の鎮八段、村山聖九段など。目標にしていたのは1歳上の阿部隆九段だった。

 研究仲間であり、友でもあり、盤上では絶対に負けたくない関係。ライバルに手痛い敗戦を食らった10代の頃、心の中で思った。

(あいつさえ倒せば自分は幸せになれるのに)

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 ギラギラと相手を睨みつけていた頃が懐かしい。

 月日が経ち、自分も若いとは言えない年齢になった。それはかつてのライバルたちも同じだ。それぞれ家庭を持ち、弟子を育てる。お互いを見る目に懐かしさが交じるようになった。

 今、同世代のライバルが若きA級棋士や新鋭を倒しているのを見ると(やったな!)と、つい嬉しくなる。

弟子の女流棋士、室田伊緒女流二段(右)と中澤沙耶女流二段(左)に囲まれて笑顔を見せる杉本昌隆八段 ©文藝春秋

 もちろん自分も負けてはいられない。形は変われどライバル関係は永遠なのだ。

 今なら言える。若い頃、同じ志を持ったライバルがいて本当に良かったなと。そんな思いを弟子たちにもしてほしいのだ。

 さて、注目の竜王戦第4局は藤井三冠の勝ち。これで新竜王、そして史上最年少四冠の達成である。

 神から天賦の才を与えられた、小学1年生の聡太少年を見た衝撃。この日が来ることは私には既定路線である。それでも四冠達成は胸にグッとくるものだ。

 実は今回、私は山口県宇部市の現地を訪れていた。夜中に藤井新竜王の部屋を訪れ祝福をする。でも、祝いの言葉より将棋談義が楽しそうな藤井新竜王。こちらも望むところである。時間の経つのも忘れ、いつまでも話し込んだのだった。

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 このエッセイは『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋)に収録されています。週刊文春連載を待望の単行本化。藤井聡太とのエピソード満載、先崎学九段との対談「藤井聡太と羽生善治」も特別収録して好評発売中です。

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