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「私はまったく英語が話せないので」

粉川 当初は会社を立ち上げて、融資を受けたうえで配給権について交渉しようと思っていたのですが、融資がおりなかったんです。なので、「現時点の貯金がこのくらいで、生活費にこれだけ充てるから、残りのこのくらいでなんとかなりませんか?」という感じで権利元へお願いしました。先方は「別にいいけど、生活は大丈夫? 本当に大丈夫?」という反応でしたね。

――当時、『ストールンプリンセス』を製作したスタジオ「アニマグラッド」では、国外に避難したり、ロシア軍に一時拘束されたりしているスタッフがいたと聞きますが、そんな過酷な状況下でコミュニケーションをとるのはかなり難しかったのではないでしょうか?

粉川 状況うんぬんというよりも、私がまったく英語が話せないので、その点でかなり苦労しました。最初は英語のできる友人に翻訳をお願いしてメールを作っていたんですが、ラリーが何回も続くようになると、友人にも申し訳ないですし、機械翻訳した文言をそのまま送ったりして……。

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 あとから読み返すと文法はめちゃくちゃでした。でも、もしかしたらそれを「一生懸命でかわいい」と好意的に捉えてくださったのかな。

粉川なつみさん ©文藝春秋

出資のきっかけも“直談判”

――もともとは個人で買い付けを始めたにもかかわらず、映画のクレジットを見ると大企業が名を連ねています。

粉川 色んな方々に協力していただいたんですよね。そもそものきっかけとしては、前の職場に勤めているころ、社長が朝日新聞社のプロデューサーを試写に招いて、そのあと一緒に食事をしたことですね。会食後に、社長には内緒で朝日新聞社のプロデューサーを追いかけて、声をかけたんです。

「もうすぐ会社を辞めて、ウクライナの映画を配給しようと思っていて! クラウドファンディングをする予定ではありますが、お金が集まらなかったら一緒にやりませんか!?」っていう感じだったと思います。そのときはまだ『ストールンプリンセス』の買い付け交渉中だったんですが、「今しかない!」と焦りながら……。

 もちろん、その場でOKはもらえませんでしたが、その方が「応援します」とおっしゃってくれたので背中を押されましたね。