文春オンライン

連載クローズアップ

「おじさんの同窓会みたいなの、かなわんねん俺」21年前に脱退したメンバーと再び曲作り…「くるり」岸田繁が明かす“今のバンドの空気”

岸田繁(ロックバンド「くるり」ボーカル/ギター)――クローズアップ

note

《今っぽいほうがいいよね。(略)おじさんの同窓会みたいなの、かなわんねん俺》

 これは映画『くるりのえいが』(佐渡岳利監督)の序盤、岸田繁さんの発言だ。現在3週間限定で劇場公開及びデジタル配信されている本作は、ロックバンド「くるり」の初期メンバー3人が集合し新しいアルバムを作るまでを記録したもの。「東京」「ばらの花」などのヒット曲で知られるくるりは、ボーカル/ギターの岸田さん、ベースの佐藤征史さん、ドラムの森信行さんの3人で1996年に結成。森さんが2002年に脱退した後も何度かのメンバーチェンジを経ながら、岸田さん佐藤さんを中心に活動を続けてきた。森さんはサポートとして同行することはあったが、曲作りを共にするのは久々となる。

岸田繁さん

「くるりはもともと学生バンドで、もっくん(森さん)も含めた3人で大学の部室で曲を作ったりしていたんです。今は全然違う曲作りのやり方をしていますけど、当時はバンド3人だけでスタジオに集まって、何も用意のないところから音を出していって曲を作るという方法をとっていました。そういうやり方は自分たちの基本で、たまに立ち戻りたくなるんですね。特にもっくんを含めた3人だと面白い化学反応が起こるので、久しぶりに集まってやってみようという話は以前からあったんですが、それと同時に映画の話もいただいて、折角なら記録映像的なものを撮ってみたらいいのかなと」

ADVERTISEMENT

 制作期間は1年弱。合間を見つけては伊豆のスタジオに集合し、数日間寝泊まりして曲作りを行った。合計の滞在日数は30日に及んだという。

「いわゆるバンドのドキュメンタリーっていくつか既存の形があると思います。『ザ・ビートルズ Get Back』とか、参考にいろいろ見ましたよ。いろんなやり方があると思うけど、今回目指したものはメンバー3人の関係性をインタビューとかドラマではなく、曲を作ってるところをずっと映すことで表現するということでした。結果として、くるりというバンドの個性が浮き彫りになったと思います」

 実際に映画内では曲作りの過程が克明に映し出される。様々なアイディアを試しながらいくつもの楽曲が出来上がっていく様子はダイナミック。完成した13曲を収めたアルバム『感覚は道標』は10月頭にリリースされているが、冒頭の発言の通り、決して懐古的ではない、今のくるりの音を詰め込んだ一枚になった。

「成長した今だったらこれができるなという部分と、昔はこうしていたなという部分が曲作りの中で対立することは何回かあったんですが、そういう時は基本的に今のやり方で揃えました。音触りとしては2023年のJポップにはない感じになった。最近の音楽は音が近いというか、空気を通していない、直接プラグインしたような音が多いんです。でも今回はリバーブを足すにしても、スタジオに音を流してその響いている音をマイクで録ったりと、その部屋での鳴り感、今のバンドの空気みたいなものを重視して取り込んだ作品になりました」

きしだしげる/1976年生まれ、京都府出身。96年、立命館大学在学中に音楽サークル内で出会った佐藤征史、森信行とロックバンド「くるり」を結成。98年にシングル「東京」でメジャーデビューした。現在は佐藤征史との2人体制で活動中。2002年に脱退した森信行を再び迎え作られた、14枚目のオリジナルアルバム『感覚は道標』が発売されている。

INFORMATION

映画『くるりのえいが』
(公開中、デジタル配信中)
https://qurulinoeiga.jp/

「おじさんの同窓会みたいなの、かなわんねん俺」21年前に脱退したメンバーと再び曲作り…「くるり」岸田繁が明かす“今のバンドの空気”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー