「SNSが普及するなかで、誰もが二項対立のどちらかの立場を選びたがっていると感じています。それに抗うためにも、複数の疑問と問題意識を提示したい。僕が正解や結論を出すのではなく、みなさんに自分なりの価値観でピックアップしてもらえる空間をつくろうというのが出発点。音声コンテンツならそれが可能だとおもったんです」

 そう語るのは、編集者の田中宗一郎さん。音楽雑誌「スヌーザー」の名物編集長だったことで知られており、現在は音楽サイト「ザ・サイン・マガジン」でクリエイティブ・ディレクターを務めている。その傍ら、ポッドキャスト番組「POP LIFE : The Podcast」のホスト役をタレントの三原勇希さんと担当。映画や音楽などポップカルチャー全般を、ゲストと共に、台本なしで時間も気にせずに語りあう“超・雑談”形式は、ポッドキャストの主流になった。

田中宗一郎さん

 今回、新たな番組「the sign podcast」をスタート。

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「一言で言えば、さらに実験したかったんです」

 ホストは田中さんの一人だけ。ゲストを複数迎えるときもあり、時間も20分弱から70分強まで様々だ。Netflixのようなシーズン/フェーズ制を導入し「うまく行かなかったら打ち切り」としている。

「構成などに関しては、ある意味でオーセンティックなものです。モノローグでは、新旧の1曲を交互に語りながら過去と現在の接続も試みたい。ただ、お行儀のいいMCではなく、スペシャリストに批評的なアングルから突っ込んだり、会話が成り立たないような、ジェンダーも世代も異なる人たちも呼んだりするつもりです。そこで僕が四苦八苦している姿もオーディエンスのみなさんに届けたい」

 以前からやっていた番組は音楽ストリーミングサービスSpotifyのスポンサードで運営していた。だが今回は、機材やスタジオの手配から、録音や編集作業、出演者へのギャランティーの捻出まで、自分たちだけで行うという。

「ずっと、社会の主流とは違うオルタナティブで開かれたエコシステム(経済圏)をつくれないかと考えていたんです。そこで、作り手と受け手をダイレクトに繋いで対価を払いたいと思ってくれる人にはドネーションしてもらう。金額も1000円から10万円まで選択肢や幅があるので、コミュニティーにも多様性が生まれるはず。出演者や協力してくれた人にもギャラに加えてロイヤリティーを支払えるまで発展させるのが理想です」

 扱うモチーフはポップカルチャーだ。すでに配信中のシーズン1では、映画『フォードvsフェラーリ』から、18歳の米女性シンガーであるオリヴィア・ロドリゴ、インディーゲームまで多種多様。

「ポップカルチャーって基本的にいかがわしいものなんです。資本主義の申し子で、社会の光と影の写し鏡でもある。それを相手にやっていこうというところは変わりません」

たなかそういちろう/1963年、大阪市生まれ。編集者、DJ、音楽評論家。広告代理店勤務、音楽誌編集を経て、96年から雑誌「スヌーザー」を創刊準備、15年間編集長を務める。現在は、合同会社ザ・サイン・ファクトリーのクリエイティブ・ディレクターとして、記事コンテンツ、音声コンテンツをいくつものメディアで制作している。

INFORMATION

ポッドキャスト番組『the sign podcast』
シーズン2は8月最終週、シーズン3は10月最終週より、Spotifyで配信。以上をフェーズ1とし、フェーズ2は来年春ローンチ予定
https://open.spotify.com/show/4zI389JJ1u8wfrHOu5BF57