文春オンライン

連載クローズアップ

「人生プラスマイナスゼロって言うけれど…」田中圭とタッグを組んで、悲劇の先にある“奇跡”を描く

鈴木おさむ(放送作家)――クローズアップ

note

 8月12日に幕を開ける舞台『もしも命が描けたら』。鈴木おさむと田中圭がタッグを組む舞台は、好評を博した『芸人交換日記』『僕だってヒーローになりたかった』に続く3作目だ。

 作・演出を務める鈴木おさむ氏は、田中圭を「テクニック面でえげつないものがある」と評する。

「僕が非常にテレビ的な人間なので、スピード感を求めてしまうんですね。だから前の2作はどちらも台詞量がすごいんです。あの量の言葉を伝えるって、もはや演劇であって演劇じゃない。今回も、田中圭の『腕』ありきのお芝居です」

ADVERTISEMENT

鈴木おさむさん

 その田中圭が演じるのは、物語の主人公・月人だ。

 月人は母親と2人で暮らしている。ある時、父親の残した画集と絵を描く道具を見つけたことがきっかけで絵を描くことが好きになるのだが……やっとつかんだ幸せなひとときがあってもすぐに壊れ、なぜ彼ばかりがこれほどつらい目に、と思うような悲劇が続く。ついに生きることを諦めようとした月人に、ある奇跡が起きる。

「人生プラスマイナスゼロって、よく言うじゃないですか。でも、本当にそうなのかな、と思うところがあって。ラッキーな人はずっとラッキーだし、不幸な人はとことん不幸だったりする。もしかしたら、世の中全体でバランスを取ってる誰かがいるんじゃないか、って想像したところから、この話は始まりました。僕がつくる舞台って、結局どこか、ファンタジーなんですよね。でも、どこかでそういうことが起きてるかもしれないってことは思わせなきゃダメだと思う」

「命」に真っ向から向き合う本作を、他の誰とでもなく、田中圭と作りたかったと鈴木おさむ氏は語る。

「僕は演じる人ありきで脚本を書いていて、その人でないとできないことを書きたいと思っています。圭くんは女手一つで育てられ、3年前にそのお母さんも亡くしている。まだ30代の若さなのに、大変な経験をしてきていると思うんですよ。親しい人がいなくなることへの感情において、彼の中には他の俳優さんとは違うものが絶対にあるはずです」

 脚本と化学反応を起こすのは役者だけではない。今回の舞台では、今をときめくYOASOBIが主題歌を手掛けることも話題だ。

「さっきちょうど、デモ音源があがってきたのを聞いたんですよ。やっぱりすごいね。僕の作風をめちゃくちゃ理解して、曲で物語を作ってくれてます。もう最初に真っ暗にしてフルで聴かせたいな、ってくらい(笑)。美術の清川あさみさんも頑張ってくれているし、こういうコラボってなかなかないから、楽しみにしてほしいですね」

すずきおさむ/1972年、千葉県生まれ。多数の人気番組の企画・構成・演出を手掛けるほか、エッセイ・小説やマンガ原作、映画・ドラマの脚本、映画監督、ラジオパーソナリティ、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

INFORMATION

舞台『もしも命が描けたら』
8月12~22日 東京芸術劇場プレイハウス、9月3~5日 兵庫県立芸術文化センター、9月10~12日 穂の国とよはし芸術劇場PLATにて
https://tristone.co.jp/moshimoinochi/

「人生プラスマイナスゼロって言うけれど…」田中圭とタッグを組んで、悲劇の先にある“奇跡”を描く

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー