鷲見さんがまだまだ知りたい「ファルコン」のこと
―― 鷲見さんは「『ファルコン』の撮影用モデルに使われたプラモデルのパーツはほぼすべて解析した」と話していましたよね。それでもまだ知りたいことがあるんですか。
鷲見 「当時のILMスタジオの間取り」から「『ファルコン』の流用パーツは誰が張り付けたか?」まで、その場の事は何でも知りたいんです。実は、最近になってスタジオの間取りは1階、2階ともに全て分かりました。現在の会社内部を紹介する動画があったんです。最近の発見では最高に嬉しいことでした。ILMの全体のレイアウトが分かれば、それを頭の中で再構築して、「ここの扉を開けたら製作途中の『ファルコン』があって、この棚にあるプラモデルのあのパーツをくっつけて『ファルコン』が作られた」ということが妄想できるじゃないですか。当時のスタッフは缶ビールを沢山飲んだそうなんですが、モデル工房から扉を開けて撮影スタジオを左側に歩いていくと冷蔵庫があったんです。そのビールは美味いに決まってるでしょう。スタジオは猛烈に暑いし。
ちなみに、モデル工房にはレコードプレーヤーとラジオチューナー、アンプがあるんですが、メーカーと商品名が特定できちゃったので購入しました。日本製の高級スピーカーはこれからなんですが、アンティークの電気スタンドなんかも買っちゃいました。
―― ……(あまりのマニアックさに、開いた口がふさがらない)。
鷲見 もちろん、当時のILMのモデルメーカーやスタッフにもインタビューしたいんですが、きちんと意味のある質問をするには、自分の中で色々な知識や仮説を持っている必要があると思うんです。
例えば、「ファルコン」のディテールの特徴として、ボディの一部が開口してあり、中のメカが露出している部分があります。機体前方に突き出した三角形の下面には例外なく、飛行機模型の着陸用脚のパーツが使われている。もしかしたらそのパーツは、すべて同じ人が貼り付けたんじゃないか、と妄想しているんです。さらに言えば、その人は飛行機モデラーで、どのキットも飛んでいる状態で完成させていたんで、脚のパーツが余っていた。それを自分の家からわざわざ持って来て「ファルコン」に貼り付けたんじゃないか、とかね。
鷲見 実は、当時のスタッフが僕自身に関心を持ってくれるよう、ウェブ上に「ある動画」を公開するという秘密の計画があるんですけど……。それは○○○を作って○○○して○○○するという。
―― えーっ。そこまでやるんですか! 確かにおもしろそうですけど、ものすごい手間とお金がかかるじゃないですか。
鷲見 ここまでやったら、「ファルコン」を作った人たちも「こいつアホやな。おもろい奴やな」と笑ってくれて、僕のインタビューにも応じてくれるかもしれないと思っているんです。
「ファルコン」撮影用モデルの表面にモデルメーカーではない女性スタッフの名前が
鷲見 実は「ファルコン」の1.7メートル撮影用モデルの表面には、製作した人たちの名前がアルファベットで小さく、こっそりと記されています。その1人は、言うまでもなくジョー・ジョンストン。他にも、ローン・ピーターソンなど、僕にとっては憧れのモデルメーカーたちばかりなんですけど、その中に1つだけ、モデルメーカーではない女性のスタッフの名前が書かれていました。
―― それは、なかなか想像力を刺激される話ですね。
鷲見 メアリー・リンド(Mary M Lind)さんという方なんですけど、メイキング本に掲載されたスナップ写真を見ると、眼鏡をかけたものすごくかわいい人で、僕は前からめっちゃ気になっていたんですよ。
だけど、現存する「ファルコン」の撮影用モデルには、彼女の名前はない。削り取られた跡があるんです。モデルメーカーの誰かが、大好きな彼女の名前を、大好きなファルコンに刻み込んだのではないかと。ただ、その後に別の誰かに削られてしまう。彼は削られたことに気づくのですが、何らかの理由で再び刻むことは出来なかった……そんなほろ苦い青春の一コマがあったんじゃないかと。
―― まさに「ILM1976年青春の記録」ですね。
鷲見 もちろん「妄想」ですけど。2017年、『スター・ウォーズ』の公開40周年を記念して、IL
―― ここまでの「愛」があれば、誰もが鷲見さんを「ILMの心のスタッフ」として認めると思いますよ(感動)。
鷲見 皆さんも、バンダイから発売される「PGファルコン」を完成させたら、自分の名前をローマ字の小文字で小さく入れてみてください。当時のILMの若者たちの輪に加わった気分になれて、きっと楽しいと思います。
写真=鷲見博
(前編が公開中です)