五反田駅から歩いて7分。繁華街の喧騒から離れた閑静な住宅街の中に現れる小さな花園がある。「ねむの木の庭」と呼ばれるその花園を今年7月、上皇、上皇后ご夫妻が手を握り合ってゆっくりと歩かれていた。ねむの木の庭は、かつて美智子さまが暮らした正田邸の跡地につくられた公園だ。
「終始手を握り合うお姿は今まで見たことがありませんでした」と語るのは、長年、公園の案内人を務めてきた樹木医の金原正道氏。美智子さまの知られざるお姿とは――。
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「両親からは多くのことを学びました」
10月20日に89歳の誕生日を迎えられた美智子さま。ミッチーブームのはじまりは、1959年4月10日、“世紀のご成婚”までさかのぼる。
その日、正田邸の門前で両親と別れの挨拶を交わしたときのことを、美智子さまはこう振り返っておられる。
「家を離れる日の朝、父は『陛下と東宮様のみ心にそって生きるように』と言い、母は黙って抱きしめてくれました。両親からは多くのことを学びました」
日清製粉の会長を務めた父の正田英三郎氏が1999年に亡くなると、その英国風の邸宅は相続税の一部として国に物納された。
「ねむの木の庭」の名称の由来
「その後、老朽化を理由に国が旧正田邸の解体を決めると、建物の保存を求めて募金運動や署名運動が起こり、さらには皇室ゆかりの地・軽井沢に建物を移築しようとする動きまで見られました。しかし、美智子さまご自身が生家の保存を固辞されたことで2003年に解体。その後、国から土地の無償貸付を受けた品川区が跡地を公園として整備し、2004年にねむの木の庭が誕生したのです」(皇室担当記者)
「ねむの木の庭」という園の名称は、美智子さまが聖心女子学院高等科のときに学友に贈った一篇の詩「ねむの木の子守歌」にちなむ。
〈そっとゆすった その枝に 遠い昔の 夜の調べ ねんねの ねむの木 子守歌〉
安らかな詩に名をとった公園を彩るのは、美智子さまが折々に詠んだ歌にちなんだ花木や、1966年にイギリスから当時皇太子妃だった美智子さまに献呈されたバラ「プリンセス・ミチコ」などである。