――演じることには、そういった共同作業の楽しさが含まれるんですね。
稲垣 そうです。演じて、カメラに撮られる楽しさだけではないんですよ。だからといって現場でいろいろな人たちと話すわけではないですけど、現場の雰囲気を見ているのがすごく好きです。自分はひとりが好きで、他人に興味のない人間だとずっと思ってきたけど、実はそうじゃないみたいだなと、現場にいると思います。ひとりでいることが好きなようでいて、意外と人のことも好きなんだなって。
テレビやラジオの番組でゲストの方と話している時も、本当にその人に興味を持って話を聞いているから、人に興味があるんですよ。普段はそういう自分はいないんですけどね。誰かがしゃべっていると、うるさいと思ってテレビもすぐ消しますし(笑)。
きっと自分の中にふたりいるんです。誰にも構われたくないと思っていて、ひとりでも十分満たされる自分と、輪の中に交じって、なにかを作ることに楽しさを感じる自分。うまくバランスを取っているんでしょうね。それでいまの自分が成り立っているのかなというふうに思います。
稲垣吾郎が演じるうえで大事にしていること
――今回の『正欲』を始め、演技する際にとくに大事にしていることはなんですか?
稲垣 まずいちばんは監督です。リーダーは監督だから、監督の作品の素材にちゃんとなれるようにとつねに思っています。作品によって求められるものは違うので、演技の仕方を変えていかないといけませんよね。スケール感を変えるというか。そういう意味では、職人的でありたいと思っているのかもしれません。目標です。いまできているかわからないけど、それが理想だと思います。
大事にしていることは、ほかにもいろいろありますよ。演技は共同作業なので、相手の反応によって変わっていく。だから家で固めすぎたらいけないし、プランは立てられないと思っています。ある程度の準備は必要だけど、相手と向き合って、そこでの掛け合いで生まれるものがすごく多い。そのバイブレーションっていうのかな。そういう動きみたいなものがすごく大事です。相手の出方によって演技を変えていくのが楽しいですよね。
それは相手役の方だけでなく、現場そのものに対しても言えることだと思います。現場と自分のチューニングの合わせ方は、その都度変えていったほうがいいのかなって。監督と話してみないとわからないから、前もって決めつけられないんですよ。舞台も同じで、お客さんの反応によって演技は変わる。その時にならないとどういう演技をするかわからないくらいのほうが面白いじゃないですか。
――それは演技論でよく言われる、「反射する」ということですよね。自分の外側で起きていることに、ただ反応するという。
稲垣 ええ、そうです。反射から生まれることがすべてかなと。それができていると思っているわけではなく、単にそのほうが楽しいと思っているだけなんですけどね。
撮影 榎本麻美/文藝春秋
メイク 金田順子
スタイリング 黒澤彰乃
INFORMATION
稲垣吾郎が主演を務める映画『正欲』(監督:岸善幸)が11月10日(金)より公開されます。詳細はこちらをご覧ください。
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