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稲垣 うん、ごっこ遊びが好きだったんです。子どもってモノもお金も持っていない分、想像力に優れているじゃないですか。だから「今日の自分は〇〇だ」って、なにかになりきって、よくその空想のなかで生きていました。

 不思議な子どもでしたよね。運動会は嫌いなのに、学芸会は大好き。人前に立つことが本当に駄目で、それはいまも苦手だけど、学芸会には出たかったんです。だけど目立たない子だったから、だれも僕を役に選んでくれなかった。

 これは初めて言うことですけど、国語の授業で教科書を読むのが意外と好きだったんです。人前に立つのも、勉強も苦手だったけど、授業中に指名されたらすらすらと読めるような気がしていた。それで俳優にもなれるはずだと、子どものころからずっと感じていました。

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 これはもうスピリチュアルな話かもしれない。前世でなにかあったのかも(笑)。だって人見知りで、人前に立ちたくなかったんですよ? それなのに俳優になりたかったんだから、本当に不思議ですよね。

「なにを観ても一緒だったらつまらないですよね」

――ここ数年、俳優の仕事が充実されているように思いますが、『半世界』(2019)や『窓辺にて』(2022)ではすごくナチュラルな、自然体の演技をされていました。

稲垣 そうですね。とくに『窓辺にて』の今泉力哉監督は自然な演技を求める方でしたから。こちらが恥ずかしくなるくらい。

――キャリアを経て、演技の幅が広がっているという思いはあるんですか?

稲垣 いや、わからないです。それは他の人に評価していただくものだから。でも広げていきたいという思いは当然あります。なにを観ても一緒だったらつまらないですよね。まあ、アクが強くて、どれを観てもその人というのもカッコいいと思いますけど。意外と僕もそっちなのかな? 

©️榎本麻美/文藝春秋

 いちばん邪魔なのはパブリックイメージだと思っているんです。もちろんそれも大事な時があって、今回の『正欲』は僕のパブリックイメージに近い役だから、観ている人がスッと入りやすいのかもしれないけど、そこから広げていきたいという思いは前提としてあります。

 初めての監督とご一緒すると、新しい発見があるからいいですよね。さかのぼると、『十三人の刺客』の時は13人の刺客の誰かの役だと思って、最初の打ち合わせに行ったんです。そうしたら三池崇史監督から敵役のほうだと言われて。びっくりしました。『正欲』の岸善幸監督も初めてご一緒する監督でしたけど、また新しい挑戦をすることができたし、現場もすごく楽しかったです。

「自分はひとりが好きで、他人に興味のない人間だとずっと思ってきたけど…」

――『十三人の刺客』の現場も楽しかったという話でしたが、稲垣さんにとって演じることはつねに楽しいことですか?

稲垣 もちろん楽しいです。楽しいことしかやりたくないですよね、それは(笑)。楽しさを感じているから、いい作品になるということではないんだけど、大勢でひとつのものを作り上げるのはやっぱり楽しい。舞台も同じです。

 普段ひとりでいることが多いですからね。いまはもうグループではないし、ひとりで暮らしていて、家族がいるわけでもない。毎朝オフィスに行って、同僚に会うわけでもありません。だから共同作業をして、なにかを作っていくことが楽しいんです。

 ジムでもたまに感じますよ。みんなで同じ方向を向いて、がんばって体を鍛えていると、仲間意識を覚えることがある。たとえがちょっと変かもしれないけど(笑)、そういう感じに似ているのかもしれないです。