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発掘!文春アーカイブス

2018/05/05

source : 文藝春秋 1996年11月号

genre : ビジネス, メディア, 働き方, 企業, 商品

 これ以上詳しくはいいませんが、社内の誰が見てもわかるようなことだったのです。

 ところが誰もそれを社長に報告しようとしませんでした。今でも社長は気がついていないでしょう。

 これがワンマン体制の悪い部分であり、会社が大きくなるにつれて、この弊害も大きくなる可能性は感じています。

「大企業病」とは何を指すのか

 さて、もう1度、任天堂「すきま産業説」に戻りましょう。

 私の開発哲学は、とにかく世界にないものを作るということでした。世界にない商品を作れば、それによって新しい独占市場を手にすることができます。似たような商品をつくれば競合して、シェア争いになる。そんなシェア争いをするなら、新しいシェアを作ったほうが手っ取り早いというのが私の考え方です。

光線銃カスタムガンマンセット 写真提供:山崎功

 独占商品ならば1円高かろうが安かろうが関係ない。ある商品を作るうえで、10円高い商品でも売れるアイデアだったら、1円商品が高くなっても関係ないわけですから、アイデアこそ一番重要で、それをどこでいかに安く作るかはあとの問題になります。任天堂も中国への工場移転が話題になりましたが、私は国内生産でも、会社が十分潤うだけのアイデアでなければ、優秀なアイデアとはいえないと思っています。

 ただし、間違えてもらっては困るのは、世界にない商品を作るということは、世界の最先端をゆく、世界にまだない技術を使おうということではありません。

「最先端」にこだわり、「不要」なものをたくさんつけて「高価」な玩具を作るとしたら、それこそ「大企業病」であり、「すきま」精神を忘れた行為だと思うのです。

 例えば、ファミコンの外側は「とにかく値段を1万円以下にしたい」という精神のもと、私が指示して作ったものですが、今、常識のようになっている「十字キー」と呼ばれるコントローラーがあります。

 あれはいかにしてコントローラーを安く作るかということから出てきたアイデアでした。当時のコントローラーはいわゆるジョイスティックというもので、大変コストがかかるものでした。どうしたら安くなるかというので思い出したのが『ゲーム・アンド・ウォッチ』の『ドンキーコング』という商品につけた十字スイッチでした。

 このときはいかに薄くしてジョイスティックの機能を実現するかということで考えたアイデアでしたが、結果的にそれが非常に安くできたという経験があったので、そのままファミコンに利用することにしたのです。

『ゲーム・アンド・ウォッチ』誕生秘話

『ゲーム・アンド・ウォッチ』を開発した時にも、私はいかに小さくするか、つまり画面サイズをどこまで小さくできるかということに悩み抜きました。

 そんな時、週刊誌を見ていると、女性が本を抱えている写真が掲載されていた。ところが、写真の中の女性が抱えている本の写真の絵柄がはっきりわかるんです。その本は切手ぐらいの大ききで写っていたんですが、これを見て、切手ぐらいの大きさでもはっきり確認できるんだから、画面も切手の大きさで十分だということがわかりました。

 ところが最初に私のアイデアを製品化しようとした人間は、ゲームをやるのなら画面は最低5センチ角は必要だという固定観念から離れられず、それを一生懸命追いかけてしまっていたんです。5センチ角ではどうしても値段が3万円、4万円の機械になってしまう。だから行き詰まって、「そんなもの誰が買うんだ」ということになっていました。

 私が、画面は切手大でいい、それでゲームはできるという話をしたらみんな信じてくれません。そこで週刊誌の写真を見せた。これは5センチ角ぐらいに感じるけれども、実際は2センチ角で、なおかつ十分見えるという説明をしたら納得してくれました。

シリーズ第1作目となったゲーム&ウオッチボール 写真提供:山崎功

 実はこういうところに開発のポイントがあります。

 もう一つ大事なことがあります。私の所属する開発第1部は、ハードもソフトも扱っていました。普通、大メーカーの開発部門は、ハードを作っています、ソフトは別部門が開発します。しかし、これは実に無駄なことを生じるのです。

 つまり、ハード屋はソフト屋のどんな注文にも応じられる機械をつくれば、いい機械ということになってしまうからです。

 となると実際にその製品が世に出た時に、ソフト屋が使わない部分がいっぱいついた製品が出てくることになりまず。さらにこれが贅肉となって、製品の価格を押し上げることにもなります。