「ママはいつか僕を助けに来てくれる」
さらにワシントン・ポスト紙は、父や兄への愚痴を書き散らすハリーを「母を亡くした12歳の少年のまま精神的に成長していないかのようだ」と評した。英ガーディアン紙も『スペア』を「母の死から立ち直ることができなかった少年の悲しい物語」と書いている。
想像してみてほしい。12歳で、自分の母親がパパラッチにカーチェイスされて事故死する体験を。
「自動車の残骸のなかで瀕死の母をパパラッチは助けようともせずにただ撮影し続けた」
母の死を知らせに来た父チャールズは一滴の涙も流さず、ハリーを抱きしめもしなかった。
その後、ハリーの本当の父はチャールズではなくダイアナの不倫相手だった乗馬のコーチ、ジェームズ・ヒューイットだと噂された。ハリーの赤毛が彼と似ていたから(実際はダイアナが不倫したのはハリーを生んだ後)。チャールズもハリーに向かって「お前は俺の子じゃないな」とジョークを言った。どうかしてる。
誰も守ってくれない王室で、ハリー少年はこう考えるようになった。ママは死んだふりをしてどこかに隠れただけだ。いつか僕を助けに来てくれる。
そんなハリーだから学生時代にはドラッグに溺れ、軍に身を投じて敵兵に怒りをぶつけたのだろう。そんなトラウマに苦しむハリーにセラピーを勧めてくれたのはメーガンだった。
『スペア』は自分はスペアにすぎないと思った少年がアイデンティティを求めてもがく旅の記録だ。だが、王室から出た後ではもう唯一無二のハリーとして生きていくしかない。
ちなみに『ザ・レイト・ショー』でハリー入場のBGMに使われた歌はアルバート・キングのブルース「悪い星の下に生まれて」だった。