10月26日のドラフト会議をどこで迎えるのか。私の選択肢は大阪桐蔭高校(大阪府大東市)一択だった。
世代ナンバーワン左腕の前田悠伍は、全国屈指の名門で1年秋から事実上のエースとなり、2年春の選抜で全国制覇を達成。2年夏、3年春と3度の甲子園を経験した。最後の夏は大阪大会決勝で履正社に敗れはしたものの、9月のU−18野球W杯にて高校日本代表のエースとして世界一の立役者となった。
2年にわたって追いかけ、大阪桐蔭史上最強の投手と信じて疑わなかった18歳の運命が決まる瞬間を見過ごすわけにはいかない。西谷浩一監督は言う。
「中学生の時に初めて前田を見た時も、高校に入学してきた前田のピッチングを見た時も、『必ずドラフト1位で指名されるような選手にしないといけない』という気持ちでした。ピッチングのセンス、牽制、フィールディング、間合い……本来なら高校3年間で教えないといけない部分を、入ってきた時にほぼ持っていた。前田自身も『プロ野球に行くために大阪桐蔭に来た』という強い気持ちが1日もぶれることはなかった。1年生の頃からフル回転でやってくれた。立派な3年間でした」
必ずドラフト1位で——こんな言葉を西谷監督から聞いたのは初めてのような気がしたが、本人は笑って否定した。
「いえ、そんなことはありません。中田(翔)の時もずっとそう思っていました(笑)。もちろん周囲に言ったことはないし、本人にも伝えていませんが」
「自分の表情ひとつで、いろいろなことを言われたりもしますから」
迎えた今年のドラフト会議では豊作の大学生投手3人と社会人外野手の度会隆輝(ENEOS)の4人に1位指名が集中し、前田は1回目の抽選に外れた3球団——北海道日本ハム、東北楽天、そして福岡ソフトバンクの競合となった。外れ1位が競合になった高校生で思い出すのは、清宮幸太郎を外した3球団が村上宗隆に集中した17年のドラフトだ。
外れ1位は前田にとっては悔しい現実かもしれないが、その悔しさを糧とした村上のような飛躍を期待したい。モニターに映ったドラフト会議の様子を無表情で眺め、3球団の競合の末、福岡ソフトバンクが交渉権を得ても無表情を貫いた。前田は言う。
「もちろん、気持ちとしてはホッとしていましたけど、自分の感情を表に出してしまったら、指名を待つ選手やクジに外れた球団に申し訳ない。自分の表情ひとつで、いろいろなことを言われたりもしますから。自分にとって長い間、プロで活躍できる選手が良い選手だと思う。それと、いつかもう一度日の丸を背負って戦いたい」