火葬場の得体が知れないから、「怖い」「やばい」と思われてしまう
「結局、火葬場やそこで働く人たちの得体が知れないから、『怖い』『やばい』と思われてしまうのではないでしょうか。
一昔前に流行った『火葬場職員は、生きている人を火葬することがある』という噂も、少し考えればデマだと分かるはず。でも、火葬場が“よく分からない場所”だから、『もしかしたら事実なのかも……』と信じる人もいたのではないかなと」
「人間は、いつか必ず亡くなります。そして、現在の日本では99.9%以上の人が火葬されている。それくらい死は普通のことで、火葬場も日常的な場所なのに、タブー視され、隠されていることが多すぎる。そして、隠されているから世間の人は不安になる。その状態は、火葬場で働く職員だけでなく、ご遺族にもいい影響を与えないと思います。
実際に、『聞きたいことがあっても、なんとなく怖くて職員さんには聞きづらい……』というご遺族の声を何度も聞いてきました。サービスの対価としてお金も払っているのに、質問すらできない雰囲気なんておかしいですよね。ほかの業種じゃ考えられません。
火葬場で働く人たちの日常を発信すれば、『どこにでもいる、普通の人たちが働いているんだ』と徐々に浸透していくはず。そうしたら、これまで“特別視”されていることにあぐらをかいていた職員たちも、変わらざるを得なくなるはず。そう考えて、YouTubeでの発信を始めました」
火葬場にも通常の会社のようにマニュアルが存在
そんな下駄さんのYouTubeを元に描いたコミックエッセイ『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』シリーズの第1巻は、2023年11月8日時点で、Amazonの女性マンガ部門の売れ筋ランキング1位になっている。ドラマ化された人気コミックなどを抑えて、トップに立ったのだ。
コミックの中では、「仕事に真摯に向き合う火葬場職員たちの姿」が描かれている。2023年10月に発売されたばかりの第3巻では、死者の尊厳を守るために、できるだけデレッキ(ご遺体が早く、きれいに燃えるように使う棒)を使わないように配慮したり、死産児やその遺族と向き合ったりする職員たちの姿が印象的だ。
「火葬場にも、通常の会社のようにマニュアルがあって、『お骨上げのときは、どこの骨かひとつひとつご遺族に説明しましょう』といった内容などが記載されています。ただ、ひとりひとり亡くなり方もご遺族との関係も異なるので、臨機応変に対応を変えることがほとんどです。
例えば、100歳近くまで生きた故人の死を、『大往生だったね』と冷静に捉えているご遺族がほとんどの場合は、マニュアル通り、じっくり丁寧にお骨上げを行います。
でも、それが若くして事故死した人だったら? 未就学児のお子さんだったら? きっとご遺族は、骨になった姿をできるだけ見たくないはず。そんなときはあえてマニュアル通りではなく、淡々とお骨上げを済ませることもあります」