現役職員から「火葬の仕方を教えてほしい」と相談されたことも
コミックを通して火葬場職員の真摯な仕事ぶりを知った読者からは、どんな声が寄せられているのだろうか。
「『職員さんたちが、丁寧にご遺体と向き合っているのを知れてよかった』『疑問や不安は、職員さんに問いかけてもいいと分かってよかった』というお声はよくいただきます。
そうやって、頑張っている火葬場の職員のことを世間の人々に知ってもらうことで、少しずつですが、火葬場職員の意識まで変わってきているんじゃないかな、と思っています」
『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』シリーズを通して下駄さんが伝えたかった想いは、読者にしっかり届いていた。いや、彼が想定していた以上の広がり方を見せている。
「現役火葬場職員から、『下駄さんのYouTubeで学んでいる』『コミックを参考書にしている』とご連絡をいただくんです。
火葬場はインフラなので、どんなに人口の少ない地方部にもあります。そういった場所では、職員が1人で運営していることも珍しくない。マニュアルだけ渡されて、先輩からろくに学ぶ機会のないまま現場に送り出されるケースもある。そういった人から、『火葬の仕方を教えてくれないか』と相談されたこともあるんですよ」
火葬場をより良くするために考えている2つのこと
実際に相談者の勤める火葬場を訪れ、火葬のレクチャーを行ったことも何度かあるという。少しずつ、でも確実に、下駄さんの発信で火葬場や職員を取り巻く状況は変化してきている。今後は、元火葬場職員として、どのような取り組みをしていくのだろうか。
「今考えていることは、2つあります。まずは、火葬場職員が集まるコミュニティを作りたい。現状、職員が悩みを相談したり、情報収集したりするツールがほとんどないんですよ。変わりたくても、どう変えたらいいか分からず困っている人もいるはず。同業者が集まって、気軽に技術や知識を共有できる場が作れたらいいなと思っています。
もう1つは、コミックの映像化ですね。もともと僕は、YouTubeで火葬場の日常を発信していました。それがコミック化されたことで、世間の火葬場への関心が少し高まったように感じた。これが映像になったら、さらに関心を高めることができると思うんです。以前、納棺師の仕事を描いた映画『おくりびと』が大ヒットしましたよね。あれを見て、納棺師への印象が大きく変わった人も多いはず。
火葬場職員と世間の人々、それぞれに向けて発信することで、火葬場はもっと良くなると信じています。火葬場は、生前の肩書きに関係なく、誰もが最期に行き着く場所です。だからこそ、誰にとっても開かれていて、平等な場所になってほしいですね」