今年6月渋谷区にオープンした、駒テラス西参道。

「観る将の聖地」を目指すというテーマを掲げており、既存の大盤解説会や指導対局とはまた違った楽しみ方が出来るイベントが多く開催されている。10月頭、遅まきながら私もそこへお邪魔することになった。

ギャラリーのサインボードで浦野八段と一緒に

将棋を指して生きている人間が目指すべき光景

 参宮橋の駅を降りてすぐにある駒テラスは、ホール・ギャラリー・スタジオ・カフェの各ブースに分かれていて、私が行ったホールとギャラリーの間には、小さい子どもが遊べるようなおもちゃが置いてあった。そして、その隣には将棋盤が置いてあり、通りがかりの人が将棋を指せるようになっている。

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 普段子育てをしていて身近にある光景が、仕事として生きている世界と共存していて、なんだか不思議な気持ちになった。スイッチを切り替えるように、その2つの世界は私の中では、決して混ざることはなかったが、たくさんのおもちゃの中に、あえて将棋を選ぶのではなく、ごく自然に将棋があって、小さな子どもが遊んでくれるというのは、私たち将棋を指して生きている人間が目指していくべき光景なのだろう。

浦野八段の話に深く共感

 ほっこりとした気持ちでイベントホールに入ると、すでに浦野真彦八段がトークショーの準備を進めていた。その日は浦野八段が手がけてきた「詰将棋ハンドブック」の20周年を記念する「ハンドブックシリーズ20周年記念トークショー」の開催日であり、私は聞き手を務めた。

 詰将棋ハンドブックシリーズは1手詰から7手詰まであり、初めての詰将棋本として手に取る人が多い、将棋界の大ベストセラー本だ。「女流棋士の○○さんは、最初に買った将棋の本がハンドブックらしいんよ」と話す浦野八段の声は、嬉しそうに感じた。

 その最初の1冊が出版されてから約20年が経つと聞いた時には「ハンドブックってわりと最近出たような……」と驚いた。過ぎた月日はあっという間に感じてしまう。しかし当然ながら、積み重ね、育て続けてきた20年間は確かにあり、トークショーではその歴史が浦野八段の軽快なトークと共に紐解かれていった。

 掲載する詰将棋についてはもちろん、文の構成、色やデザイン、紙の質……。聞けば聞くほど、ハンドブックシリーズには浦野八段のこだわりが詰まっていた。

 私は詰将棋に関しては読者や解答者であると同時に、一応創る側に足を踏み入れている人間でもある。そしてこうして、文章を書く側でもある。